ガール・クレイジー (1943年の映画)

1943年にメトロ・ゴールドウィン・メイヤー（MGM）が製作したミュージカル映画『ガール・クレイジー』は、当時の大スターであったジュディ・ガーランドとミッキー・ルーニーが主演を務めた作品です。これは、彼らが共に主演した数々のヒット作の中で、最後に組んだ映画として知られています。

概要

本作は、ジョージ・ガーシュウィンとアイラ・ガーシュウィン兄弟が作詞作曲を手掛けた同名のブロードウェイ・ミュージカルを原作としています。脚本はガイ・ボルトンとジャック・マゴワンが担当しました。プロデュースは、MGMで数々のミュージカル映画を成功させたアーサー・フリードのチームが行いました。

監督は製作途中で交代しています。当初メガホンを取っていたのはバスビー・バークレーでしたが、程なくしてノーマン・タウログに引き継がれました。音楽面では、原作ミュージカルで使われたガーシュウィン兄弟の楽曲6曲全てに加え、「Fascinating Rhythm」が追加されています。

ストーリー

物語は、富豪の父親を持つ若いプレイボーイ、ダニー・チャーチル・ジュニアを中心に展開します。女性関係に奔放な息子を心配した父親は、彼を学業に専念させるため、都会の名門大学から、サボテンが茂る西部にある質素な男子校「コディ鉱農大学」へ転校させます。駅から大学までの長い道のりを歩く途中、ダニーは地元の郵便配達員で、学生たちのアイドルであるジンジャー・グレイと出会い、一目で恋に落ちます。

最初は古い施設や素朴な環境、学生たちのいたずらに馴染めなかったダニーですが、次第に慣れていき、ジンジャーに惹かれていきます。二人は互いに心を寄せ合いますが、ジンジャーの祖父が経営するコディ鉱農大学が志願者数の減少により閉校の危機にあることを知り、落胆します。

ダニーは父親の名前を利用して州知事との面会を取り付け、1ヶ月以内に大学の志願者を増やし、閉校を回避することを約束します。彼は、大学に注目を集めるために西部劇をテーマにしたロデオ大会と、その目玉としてロデオの女王コンテストを企画します。人気ミュージシャン、トミー・ドーシー率いるバンドの演奏もあり、イベントは大成功を収め、入学希望者は激増し、大学の未来は安泰となります。

しかし、ダニーはロデオの女王にジンジャーではなく州知事の娘を選んでしまい、二人の間に一時的なすれ違いが生じます。ダニーはジンジャーの心を取り戻すべく奮闘し、最終的に二人は和解、盛大に結ばれます。

キャスト

ジンジャー・グレイ：ジュディ・ガーランド
ダニー・チャーチル・ジュニア：ミッキー・ルーニー
ラグス：ラグス・ラグランド
歌手：ジューン・アリソン
ポリー・ウィリアムズ：ナンシー・ウォーカー
フィニアス・アーモア学長：ガイ・キビー
ダニー・チャーチル・シニア：ヘンリー・オニール
テイト知事：ハワード・フリーマン
出演：トミー・ドーシー&オーケストラ

特筆すべき点として、本作はジューン・アリソンの映画デビュー作となりました。また、ジュディ・ガーランドが演じたジンジャー・グレイ役は、ブロードウェイ版ではジンジャー・ロジャースが演じていました。

使用楽曲

作品を彩る楽曲は、ジョージ・ガーシュウィン作曲、アイラ・ガーシュウィン作詞によるものが中心です。

Treat Me Rough
Bidin' My Time
Could You Use Me?
エンブレイサブル・ユー (Embraceable You)
Fascinating Rhythm
バット・ノット・フォー・ミー (But Not For Me)
アイ・ガット・リズム (I Got Rhythm)

ロジャー・イーデンスによる「Happy Birthday Ginger」も使用されています。ミュージカル・シーンの振付はジャック・ドナヒューが担当しましたが、「エンブレイサブル・ユー」の振付はチャールズ・ウォルターズが行いました。公開されたバージョンではカットされましたが、ジュディ・ガーランド、ミッキー・ルーニー、ナンシー・ウォーカーが歌う「Bronco Busters」という曲も撮影されました。

ミュージカル・シーンはステレオで収録されたにも関わらず、公開時はモノラル音声と混合されました。後にライノ・レコードがオリジナルのステレオ音声でCDをリリースしています。ステレオで収録されたトミー・ドーシー&オーケストラの演奏は、これが貴重な例である可能性があります。

製作秘話

本作の企画が始まった当初、主演にはフレッド・アステアとエレノア・パウエルが検討されていました。しかし、最終的にジュディ・ガーランドとミッキー・ルーニーのコンビに決定しました。特に、子役からの脱却を目指していたガーランドを、プロデューサーのロジャー・イーデンスが説得し、ルーニーとの最後の共演作として本作に臨むことになったと言われています。

製作開始後、最初の監督であるバスビー・バークレーが解雇されるという出来事がありました。バークレーは過去にガーランドとルーニー主演でヒット作を手掛けていましたが、複数の要因が重なりました。特に「アイ・ガット・リズム」の演出を巡るイーデンスとの意見の対立、大人数アンサンブルや複雑なカメラワーク、効果音などが音楽や歌声を邪魔するという批評がありました。MGMは彼の高額なミュージカルシーンの製作費にも難色を示していました。そして最も大きかったのは、ガーランドとの不仲です。バークレーの要求が厳しく過酷な演出に、ガーランドは精神的に追い詰められていたと後に語っています。バークレーの演出が反映されたのは「アイ・ガット・リズム」のシーンが主となりました。

後任となったノーマン・タウログは、バークレーとは対照的に穏やかな監督スタイルで製作を進めました。映画史家は、タウログによるミュージカル・シーンの描き方が、この時期のミュージカル映画における新たな様式の幕開けを反映していると評しています。撮影は、カリフォルニア州パームスプリングス近郊の砂漠の一部でも行われました。

評価と興行収入

公開された『ガール・クレイジー』は、批評家からおおむね好評を得ました。興行的にも大きな成功を収め、MGMの記録によると、アメリカとカナダだけで260万ドル以上、その他の地域を含めると370万ドル以上の興行収入を記録し、100万ドル以上の利益を上げました。これは1943年の高収益作品の一つとなりました。フランスでは約90万人の観客を動員しています。

ホームメディア展開

本作は、時代を経て様々な形式で家庭向けにリリースされています。1991年にMGMミュージカルのラインナップとして初めてVHS化され、レーザーディスクでもリリースされました。2001年にはワーナー・ブラザースからオリジナルのフォーマットで再リリースされています。2007年には「The Mickey Rooney & Judy Garland Collection」の一部としてDVDが発売されました。さらに、近年ではワーナー・アーカイブ・コレクションの一環として、2018年、2020年に単体でDVDおよびブルーレイがリリースされており、現在も多くのファンが手軽に鑑賞できるようになっています。

他の映画化作品

原作であるブロードウェイ・ミュージカル『ガール・クレイジー』は、本作以外にも過去に二度映画化されています。最初に映画化されたのは1932年で、RKOが製作し『頓珍漢嫁探し』という邦題で公開されました。主演はバート・ウィーラー、ロバート・ウールシー、ドロシー・リーでした。そして、本作からさらに後の1965年には、MGM自身によって『青空のデイト』として再映画化され、コニー・フランシスとハーマンズ・ハーミッツが出演しています。同じ原作でも、時代や主演によって異なる魅力を持つ作品が生み出されました。

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