キキョウ

キキョウ：薬用と観賞を兼ね備えた秋の風物詩

キキョウ（桔梗、学名: Platycodon grandiflorus）は、キキョウ科の多年生草本で、日本全土をはじめ、朝鮮半島、中国、東シベリアに広く分布しています。日当たりの良い山野に自生し、50～100cmほどの高さに成長します。太く黄白色の根を持ち、葉は互生し、先が尖った鋸歯のある形状をしています。葉の裏面はやや白みを帯びています。

初夏から秋にかけて、特徴的な釣鐘型の花を咲かせます。つぼみは膨らんだ風船のような形で、開花時には星形に5裂し、青紫色の美しい花弁を広げます。花径は4～5cmほどで、雄しべと雌しべはそれぞれ5本ずつあります。花の色は青紫が一般的ですが、園芸品種には白や桃色の花をつけるものも存在します。また、草丈が低い矮性種や、八重咲き、つぼみのままほとんど開かない品種なども育成されています。

キキョウは雄性先熟という特徴があり、雄しべが先に成熟して花粉を放出し、その後雌しべが成熟して受粉可能になります。この仕組みは他家受粉を促進し、遺伝的多様性を保つ上で重要な役割を果たしています。この雄性先熟はキキョウで観察しやすい特徴の一つです。

開花時期は6月中旬の梅雨頃から始まり、夏を通じて初秋（9月頃）までと長く、秋の七草の一つとして古くから親しまれてきました。秋の季語としても俳句などにも詠まれています。

キキョウの名称と生薬としての利用

属名 Platycodon はギリシャ語で「広い釣鐘」を意味し、種小名 grandiflorus は「大きな花の」という意味です。英名ではつぼみの形から「balloon flower」と呼ばれています。

キキョウの根は、サポニン（オレアナン型トリテルペンサポニン）を豊富に含み、古くから生薬として利用されてきました。日本薬局方では「桔梗根」として収載されています。薬効としては、鎮咳、去痰、排膿作用が知られており、漢方薬の処方にも多く用いられています。代表的な処方としては、桔梗湯（キキョウとカンゾウの組み合わせ）や、炎症が強い場合に用いられる小柴胡湯加桔梗石膏などがあります。その他、清肺湯、竹筎温胆湯、参蘇飲といった漢方処方にも配合されています。良質なキキョウの根は、太く充実しており、えぐみのあるものが好まれます。主な産地は韓国、北朝鮮、中国です。

キキョウと文化

キキョウは日本文化においても重要な位置を占めています。万[[葉集]]にも山上憶良の歌に「朝貌の花」として詠まれており、古くから人々に愛されてきたことがわかります。また、花の形を図案化した「桔梗紋」は、多くの武将や氏族の家紋として用いられてきました。例えば、美濃の土岐氏一族や明智光秀などがその例として挙げられます。安倍晴明が用いたとされる五芒星も「桔梗印」と呼ばれ、現在の晴明神社では神紋となっています。朝鮮ではキキョウを「トラジ」と呼び、民謡の題材にもなっています。

絶滅危惧種としてのキキョウ

近年、キキョウの自生株は減少傾向にあり、環境省レッドリストでは絶滅危惧II類（VU）に指定されています。生育地の減少や環境変化などが原因と考えられています。そのため、保護活動が重要視されています。

キキョウにちなんだ地名や名称

日本各地にはキキョウにちなんだ地名や施設名が多く存在します。例えば、北海道函館市の「桔梗駅」、三重県名張市の「桔梗が丘駅」、そしていくつかの市町村ではキキョウが市の花として指定されています。（龍ケ崎市、伊勢原市、塩尻市、一宮市、掛川市、多治見市、土岐市、瑞浪市、名張市、鎌ケ谷市、山県市など）

このように、キキョウは薬用、観賞用、そして文化的な側面からも、日本の歴史と文化に深く関わってきた植物です。その美しさだけでなく、薬効や歴史的背景も踏まえ、キキョウの持つ多様な魅力を再認識することが大切です。

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