キクシノブ

キクシノブ（学名：Pachypleuria repens (L. fil.) Kato）は、シダ植物門シノブ科キクシノブ属に分類される常緑性の多年草です。着生植物であり、その葉の形状がキクの花に似ていることが名前の由来となっています。

特徴

根茎: 細長く地を這うように伸び、多数の根を岩などに付着させます。根茎の直径は約1〜1.5mmで、表面は褐色の鱗片で覆われています。
葉: 根茎からまばらに生え、長さは十数cm程度。葉柄は約半分を占め、基部は褐色を帯び、先端に向かって緑色に変化し、まばらに鱗片が見られます。葉身は三角形または五角形に近い形状で、羽状または基部で二回羽状に切れ込みます。葉の質感は硬く厚みがあり、深緑色で表面には光沢があります。裏面はやや色が薄く、滑らかです。葉脈は両面ともにほとんど目立ちません。
葉縁: 丸い鋸歯が並び、裏側の切れ込みの内側に胞子嚢群が形成されます。胞子嚢群は円形の包膜で覆われています。

生育環境

キクシノブは、湿度の高い岩場や樹幹に着生します。小型であるため、他の植物に紛れて見つけにくいこともあります。名前の由来は、葉の形がキクに似ていることに加え、同じシノブ科の植物であることに由来します。葉の形状は、栽培されているキクの葉に似た荒い切れ込みが入っています。

日本では、紀伊半島、四国南東部、九州南部、琉球列島に分布しています。国外では、アジアの熱帯地域に広く分布していますが、アフリカには分布していません。

近似種

キクシノブ属は、アジアの熱帯地域を中心に約40種が知られています。日本国内では、琉球列島にシマキクシノブ（学名：P. vestita (Bl.) Kato）が分布しています。シマキクシノブは全体的にキクシノブに似ていますが、葉が二回から三回羽状に裂ける点が異なります。シマキクシノブは、奄美大島以南の琉球列島や小笠原諸島の一部に分布し、海外では台湾やマレーシアでも確認されています。

利用

キクシノブは、小さくまとまった姿と厚みのある葉が特徴的で、観賞価値が高く、栽培されることもあります。しかし、栽培には湿度管理など高度な技術が必要であり、キクシノブをうまく栽培できる腕があれば、他のほとんどのシダも栽培できると言われるほどです。

日本では、もともと分布域が限られていることに加え、観賞用としての採取により個体数が減少し、絶滅危惧種に指定されています。

参考文献

岩槻邦男編『日本の野生植物　シダ』(1992年、平凡社)
* 光田重幸『しだの図鑑』(1986年、保育社)

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