キクユ族の名前

キクユ族の名前：文化的背景と命名規則

キクユ族は、ケニア最大の民族集団であり、その文化は豊かな歴史と伝統に彩られています。本記事では、キクユ族の名前について、その構成、規則、そして名前が持つ意味について詳しく解説します。

キクユ族の名前の構成

キクユ族の個人名は、原則として「洗礼名＋父方または母方の祖父母の個人名＋父親の個人名」という構成を持ちます。姓は存在しません。祖父母の名前は、生まれた子供の性別に対応するものが選ばれます。例えば、男の子には父方の祖父の名前、女の子には母方の祖母の名前が選ばれることが多いです。しかし、この規則にはいくつかの例外があります。

例外的な命名規則

最も顕著な例外は、先に生まれた同性の子供が亡くなった後に、再び同じ性別の子供が生まれた場合です。この場合、二番目の名前は一応相続されますが、新生児に不幸が繰り返されるのを避けるため、日常的にも公式にも使われるニックネームが与えられます。男の子には「カリウキ（Kariũki）」、女の子には「ジョキ（Njoki）」というニックネームがよく使われます。

カリウキ（Kariũki）：文字通りには「甦った者」を意味し、亡くなった男の子の生まれ変わりと見なされます。
ジョキ（Njoki）：文字通りには「戻ってきた者」を意味し、亡くなった女の子の生まれ変わりと見なされます。

また、一部の名前は、その人がどのクラン（氏族）に属しているかを示すこともあります。例えば、「ワンジル（Wanjiru）」という名前を持つ人は、「アンジル（Anjiru）」クランの出身であることが分かります。

キクユ族の名前の例

以下に、キクユ族でよく使われる名前の例をいくつか挙げます。発音は、キクユ語の音韻体系に則り、声調（高、低、昇）とダウンステップを明記しています。

男性名

カマウ（Kamau）：/kà.mà.úꜜ/
カリウキ（Kariũki）：/kà.ɾiò.kǐꜜ/。「甦る」を意味する動詞 kũriũka に由来。
ガンガ（Ng’ang’a）：/ɲaɲa/
キマニ（Kĩmani）：/kèmàníꜜ/
グギ（Ngũgĩ）：/ŋɡòɣě/
ジュグナ（Njũgũna）：/ɲdʑɔ̀ɣɔ́náꜜ/
ジョロゲ（Njoroge）：/ɲdʑɔ̀ɾɔ̀ɣɛ́ꜜ/。一般名詞としてはジェネット（ジャコウネコ科の動物）を意味し、先祖の霊による子供の守護を祈って名付けられる。
ニャム（Nyamũ）：/ɲàmǒꜜ/。一般名詞としては「動物」を意味するが、先に生まれた子供が相次いで亡くなった場合に用いられる。

女性名

ジョキ（Njoki）：/ɲdʑɔ̀ːkǐꜜ/。「戻る」を意味する動詞 gũcoka に由来。
ニャンブラ（Nyambura）：/ɲà.mbù.ráꜜ/。神話に登場するキクユ族の始祖夫婦の娘の名前でもある。
ワイゼラ（Waithĩra）：/waiðeɾa/。神話に登場するキクユ族の始祖夫婦の娘の名前でもある。
ワイリム（Wairimũ）：/waiɾimo/。神話に登場するキクユ族の始祖夫婦の娘の名前でもある。
ワキウル（Wakĩũrũ）：/wakeoɾo/。神話に登場するキクユ族の始祖夫婦の娘の名前でもある。
ワンガリ（Wangarĩ）：/wa.ŋɡa.ɾe/。神話に登場するキクユ族の始祖夫婦の娘の名前でもある。
ワングイ（Wangũi）：/waŋɡoi/。神話に登場するキクユ族の始祖夫婦の娘の名前でもある。
ワンゲシ（Wangeci）：/waŋɡɛɕi/。神話に登場するキクユ族の始祖夫婦の娘の名前でもある。
ワンジェリ（Wanjeri）：/wa.ɲdʑɛ.ɾi/。神話に登場するキクユ族の始祖夫婦の娘の名前でもある。
ワンジク（Wanjikũ）：/wa.ɲdʑi.ko/。神話に登場するキクユ族の始祖夫婦の娘の名前でもある。
ワンジル（Wanjirũ）：/wa.ɲdʑi.ɾo/。神話に登場するキクユ族の始祖夫婦の娘の名前でもある。
ワンボイ（Wambũi）：/wà.mboíꜜ/。神話に登場するキクユ族の始祖夫婦の娘の名前でもある。

名前が持つ意味

キクユ族の名前は、単に個人を識別するだけでなく、その人の出自、家族の歴史、そして文化的な価値観を反映しています。名前を選ぶ際には、これらの要素が考慮され、名前は個人のアイデンティティ形成に重要な役割を果たします。

参考文献

Armstrong, Lilias E. (1940). The Phonetic and Tonal Structure of Kikuyu. Rep. 1967. (Also in 2018 by Routledge).
Benson, T.G. (1964). Kikuyu-English dictionary. Oxford: Clarendon Press. https://ci.nii.ac.jp/ncid/BA19787203
Clements, George N. (1984). "Principles of tone assignment in Kikuyu." In Clements, G.N. and J.A. Goldsmith (eds.) Autosegmental studies in Bantu tone, pp. 281–339. Dordrecht: Mouton de Gruyter; Foris Publications. ISBN 90 70176 97 1
Ford, K. C. (1975). "The Tones of Nouns in Kikuyu." In Studies in African Linguistics, Volume 6, Number 1, pp. 49–64.
Njagi, James Kinyua. (2016). "Lexical Borrowing and Semantic Change: A Case of English and Gĩkũyũ Contact."
Wanjui, Joseph Barrage (2009). My Native Roots: A Family Story. Nairobi: University of Nairobi Press. ISBN 9966 846 63 8. https://books.google.co.jp/books?id=DFKkxpGSWbAC&dq=k%C5%A9ri%C5%A9ka&hl=ja&source=gbs_navlinks_s
* ガンガ伸子、サイモン・ピーター・ガンガ (2013).「ケニア・キクユ族の親族制度と子どものネーミング・ルール」 『長崎大学教育学部社会科学論叢』, pp. 25-33.


この文章は、キクユ族の名前に関する深い理解を提供することを目的としています。キクユ族の文化に触れ、その豊かな命名の伝統を理解する一助となれば幸いです。

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