ロックンロール・サーカス

ロックンロール・サーカス：伝説の一夜と30年の封印

1968年、ローリング・ストーンズによって企画・制作されたロックンロール・サーカスは、単なるコンサート映像にとどまらない、ロック史に燦然と輝く伝説的作品です。当時全盛期を迎えていた数々のアーティストが出演したにもかかわらず、完成から約30年間も世に出ることなく、その存在は神秘に包まれていました。その理由、そして遂に公開された経緯など、この作品にまつわる様々な謎を解き明かしていきます。

豪華アーティスト競演と異色のコラボレーション

この企画の構想は、ミック・ジャガーの突拍子もないアイデアから始まりました。ロックンロールとサーカスの融合という斬新なコンセプトのもと、5万ポンドもの巨額な予算が投じられました。監督を務めたのは、ストーンズのプロモーションビデオを手掛けたマイケル・リンゼイ＝ホッグ。彼は、ジャガーからの依頼をきっかけに、この壮大なプロジェクトを推進することになります。

当初の出演予定には、ジェスロ・タルやトラフィック、ドクター・ジョンといった面々も含まれていましたが、様々な事情により、最終的にはジョン・レノン、エリック・クラプトン、ザ・フーといったそうそうたるメンバーが集結することとなりました。特に、レノンの参加は、リンゼイ＝ホッグの迅速な交渉により実現しました。レノンはクラプトンを伴い、急遽このプロジェクトに参加。また、タジ・マハールも出演予定でしたが、イギリスへの入国許可が下りないというハプニングに見舞われますが、キース・リチャーズの強い要望により、秘密裏にイギリスに入国し、出演が実現しました。その他にも、マリアンヌ・フェイスフル、イヴリー・ギトリス、ジュリアス・カッチェンといった多彩なアーティストが参加し、まさに異色のコラボレーションが実現しました。レノン、クラプトン、ミッチ・ミッチェル、リチャーズは、この日限りのスーパーバンド「ザ・ダーティー・マック」を結成し、圧巻のパフォーマンスを披露しています。

３日間に渡る撮影と数々のハプニング

1968年12月10日から12日にかけて、ウェンブリーにあるスタジオで撮影が行われました。サーカスのテントを模したセットが組まれ、観客はカラフルな衣装を着用。出演者もサーカス風のコスチュームで登場し、演奏シーンではそれぞれの衣装に着替えるという演出が施されました。演奏の合間には、サーカス芸人によるパフォーマンスが披露され、ストーンズのメンバーが司会進行役を務めるなど、まさにサーカスとロックンロールが融合したエンターテイメントが展開されました。

しかし、撮影は順調に進んだわけではありません。オープニングシーンの撮影だけで何度もやり直しが必要となるなど、様々なトラブルに見舞われました。曲芸パフォーマンス中にも、演者が落馬したり、カメラがナイフで壊されたりと、アクシデントが続出。撮影は予定を大幅に超過し、出演者や観客は疲労困憊の状態となりました。最終的に、撮影が終了したのは12日の午前6時過ぎ。最後まで撮影に参加した観客には、感謝の意を込めてバスが用意されました。このステージは、ストーンズにとってブライアン・ジョーンズ在籍時の最後のステージ、そしてジョーンズにとって生涯最後のステージとなりました。

30年間の封印と、その理由

完成した「ロックンロール・サーカス」でしたが、その後長らく封印されることになります。様々な憶測が飛び交いましたが、その最大の要因は、ストーンズが1970年にビジネス・マネージャーのアラン・クレインと決別したことにありました。クレインはストーンズの多くの作品の版権を握っており、「ロックンロール・サーカス」の映像・音源も彼の所有物となっていました。そのため、ストーンズは公開する権利を失ってしまったのです。ミック・ジャガーが自身の演奏に不満を抱いていたという説も流布していますが、これは封印の決定的な理由ではありませんでした。

しかし、この作品の一部は、様々な形で世に出ることになります。1969年にはドイツのテレビ局が、1979年にはザ・フーのドキュメンタリー映画の中で、一部の映像が公開されました。そして、1996年になってようやく、VHSとCD-ROMがリリースされ、一般公開を果たします。2004年にはDVDが発売され、未公開映像や関係者による解説などが追加収録されました。

未公開映像や秘話の数々

DVDには、マハールやカッチェンの未公開演奏、ステージ裏のジャガーとレノンの貴重な映像などが収録され、新たな事実が明らかになっています。また、当初の企画にはカンガルーのボクシングなども含まれていましたが、レノンとオノの反対により中止になったというエピソードも興味深いものです。リンゼイ＝ホッグは、フィルムが現存しないため映像化できなかった演目もあったことを明かしており、この作品にはまだまだ未解明の部分が残されていることを示唆しています。

「ロックンロール・サーカス」は、豪華アーティストの共演、斬新なコンセプト、そして30年間にわたる封印劇など、数々のドラマを秘めた作品です。この作品は、単なるコンサート映像を超え、時代の変遷や音楽シーンのダイナミズムを反映する、貴重な歴史的資料と言えるでしょう。

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