無法の世界

「無法の世界」（Won't Get Fooled Again）は、1971年にイギリスのロックバンド、ザ・フーによって発表された楽曲です。作詞・作曲はピート・タウンゼントが手掛け、アルバム『フーズ・ネクスト』に収録されています。この曲は、シンセサイザーを大胆に用いた、テクノとハードロックを融合させた前衛的なサウンドが特徴で、リリース当時から大きな注目を集めました。

アルバムに先駆けてシングルカットされたこの曲は、8分半を超える大作でありながら、シングルバージョンは3分半程度に編集されています。イギリスでは「ピンボールの魔術師」以来となるトップ10ヒットを記録し、その人気を不動のものとしました。また、プロモーションには、キース・ムーンが女装姿で鞭を振るうという衝撃的な写真が使用され、話題を呼びました。

この曲は、元々タウンゼントが企画したロック・オペラ「ライフハウス」のために書かれたものでしたが、「ライフハウス」の計画は実現しませんでした。しかし、アメリカではシングル盤に「映画『ライフハウス』より」と記載され、その影響力を示しました。タウンゼント自身は、この曲の内容について「革命は、長い目で見ればただの革命に過ぎず、多くの人々を傷つけるだけ」と語り、革命に対する懐疑的な視点を表明しています。

1971年4月、ロンドンのヤング・ヴィック・シアターでの「ライフハウス」お披露目ライブで初披露されて以来、この曲はライブにおける定番曲となりました。1978年には、キース・ムーンが生前に公共の場で最後に演奏した曲としても知られています。その模様は、ザ・フーのドキュメンタリー映画『キッズ・アー・オールライト』に収録されました。

1980年代以降も、『ライヴ・エイド』や『コンサート・フォー・ニューヨーク・シティ』など、数々の大規模なイベントで演奏され、その普遍的な魅力は色褪せることがありません。

2006年には、アメリカの保守派総合誌ナショナル・レビューの「保守的なロックソング・ベスト50」で1位に選ばれました。これに対し、タウンゼントは自身のブログで、「この曲が夢破れた革命家たちのテーマソングとされた」ことに反論しています。

また、この曲は、CBSで放送されたドラマ「CSI:マイアミ」の主題歌としても使用され、幅広い層にその名を知られるようになりました。『ローリング・ストーン』誌が選ぶ「最も偉大な500曲」では、295位にランクインしています。

ちなみに、このシングルのB面には「アイ・ドント・イーヴン・ノウ・マイセルフ」が収録されています。この曲は、元々は1970年に製作されたもので、「ライフハウス」とは無関係に作られた楽曲でしたが、シングルリリースに合わせて再録音されました。

別バージョン

1971年3月、ニューヨークのレコード・プラント・スタジオで行われたセッションで、初期バージョンが録音されました。このバージョンは、シンセサイザーのパターンがオリジナルバージョンと異なります。テープ・ループを使用せず、VCS3を通したオルガンをリアルタイムで演奏している点が特徴です。また、曲の終盤にあるロジャー・ダルトリーのシャウトがないのも、オリジナルバージョンとの大きな違いです。この初期バージョンは、2003年に発売された『フーズ・ネクスト／デラックス・エディション』で初めて公開されました。

カバーしたことのあるミュージシャン

「無法の世界」は、その高い音楽性から多くのミュージシャンにカバーされています。以下に主な例を挙げます。

ヴァン・ヘイレン：ライブで演奏し、1993年のライブアルバム『ライヴ:ライト・ヒア、ライト・ナウ』に収録。
U2：ライブで演奏。
ドリーム・シアター＆クイーンズライク：合同ライブで演奏。
エルフ：レインボーの前身バンド。ライブで演奏。
クリス・コーネル：ライブで歌唱。
アクセル・ルディ・ペル：2007年のカバーアルバム『Diamonds Unlocked』に収録。
* ノエル・ギャラガー：2000年、ザ・フーのライブにギター＆コーラスでゲスト参加し、5人で演奏を行なった。

「無法の世界」は、その時代を超えたメッセージ性と革新的なサウンドによって、今もなお多くの人々に愛され続けている名曲です。

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