キティラ島

キティラ島：エーゲ海の要衝、愛と美の女神が息づく島

キティラ島は、ギリシャのペロポネソス半島の南に位置する、地中海に浮かぶ美しい島です。歴史的にはイオニア諸島に数えられますが、現在はアッティカ地方に属しています。エーゲ海の出入り口という地理的条件から、古来より交通の要衝として栄え、ギリシャ神話に登場する愛と美の女神アプロディーテーゆかりの地としても知られています。現代では観光が主要な産業であり、多くの人々がその美しい自然と豊かな歴史を求めて訪れます。

名称の由来と多様な表記

古典ギリシア語では「キュテーラ島」と呼ばれ、英語ではCythera、フランス語ではCythèreと表記されます。また、イタリア語ではヴェネツィア共和国統治時代にCerigo（チェリーゴ島）と呼ばれていました。カナ表記も「キティラ」の他に「キシラ」「キテラ」「キチラ」など様々です。

地理：戦略的要衝と自然の恵み

キティラ島は、ペロポネソス半島の南、エーゲ海の「出口」に位置します。その戦略的重要性は古代から認識されており、交易拠点として多くの商人が行き交いました。島の面積は約280平方キロメートルで、アッティカ地方の島としては最大ですが、人口密度は低いのが特徴です。

島の北側にはキティラ海峡があり、ペロポネソス半島やエラフォニソス島と向かい合っています。この海峡は地中海でも有数の難所として知られ、強風による難破船が多数存在します。

島の海岸線は切り立った崖と深い湾が織りなす変化に富んだ地形であり、多様なビーチが存在します。また、アフリカプレートがエーゲ海プレートに沈み込む地点に近いため、地震が多い地域でもあります。過去には大きな地震も発生しており、近年でも地震が観測されています。

主要な集落：ホラとポタモス

島の主要な集落としては、ポタモス、アギア・ペラギア、キティラなどが挙げられます。島の首邑であるキティラは、ホラ（「村」の意味）とも呼ばれ、南端に位置しています。ホラにはヴェネツィア統治時代の城が残されています。最大の集落は北部の内陸にあるポタモスで、人口は約400人です。海に面した村は5つあり、それぞれに独自の魅力があります。

歴史：多様な支配者の下で

キティラ島の歴史は古く、ミノア文明と同時期のヘラディック期には、エジプトやメソポタミアとの交易が行われていたことが遺跡から示唆されています。アルカイック期にはフェニキア人が植民都市を築き、貝紫色の染料を産出しました。

古典期には、スパルタやアテナイといった大都市国家の支配下に入り、交易拠点や軍事拠点として利用されました。ローマ帝国の時代には、スパルタの有力者の所有地となり、その後、キリスト教が伝わりました。

中世には、東ローマ帝国やヴェネツィア共和国の支配を受け、ヴェネツィア人はコンスタンティノープルへの交易路を保護するためにこの島を利用しました。オスマン帝国の侵攻や海賊の襲撃も経験し、その影響は島の建築様式や文化に色濃く残っています。

近世に入ると、ナポレオンによるフランス領イオニア諸島への組み込み、ロシアによる占領、イギリスの保護領を経て、1864年にギリシャ王国に譲渡されました。

社会：観光と伝統

キティラ島の主要産業は観光です。特に夏のシーズンには多くの観光客が訪れ、島の経済を支えています。また、タイム・ハニー（ハーブのタイムから採れる蜂蜜）の生産も盛んで、ギリシャ国内で高い評価を得ています。

島の人口は、1864年のピーク時から減少傾向にありますが、近年では観光業の発展とともに、新たな移住者も増えています。世界各地に散らばったキティラ島出身者のディアスポラも存在し、特にオーストラリアには多くの人々が暮らしています。

交通：空と海の玄関口

キティラ島には、ディアコフティ港とアギア・ペラギア港という2つの主要な港があり、アテネ、ペロポネソス半島、クレタ島などと定期航路で結ばれています。また、キティラ島国内空港があり、アテネとの間に定期便が運航されています。

文化と観光：神話と歴史が織りなす魅力

キティラ島は、ギリシャ神話のアプロディーテーゆかりの地として知られ、愛と美の島として多くの芸術家や作家にインスピレーションを与えてきました。島の建築様式は、エーゲ海風とヴェネツィア様式が融合した独特のものです。伝統的な祭りやダンスも盛んで、多くの人々を魅了しています。

ヴァトーの絵画「シテール島への巡礼」やドビュッシーの楽曲「喜びの島」など、キティラ島（シテール島）をモチーフにした芸術作品も多く存在します。これらの作品を通して、キティラ島の美しさと魅力は世界中に広まっています。

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