イオニア諸島

イオニア諸島：歴史と文化が織りなす美しい島々

イオニア諸島は、ギリシャ西岸のイオニア海に浮かぶ島々で、その歴史は古代ギリシャ時代にまで遡ります。中世から近代にかけて、ヴェネツィア共和国やイギリスなどの支配を受け、多様な文化が交錯する独特の歴史を刻んできました。これらの島々は、しばしば「ヘプタネサ（七つの島）」とも呼ばれ、主要な7島を中心に、数多くの小さな島々から構成されています。

名称

イオニア諸島は、歴史的にさまざまな支配者の影響を受けてきたため、多様な名称を持っています。ギリシャ語での正式名称は「Ιόνια Νησιά」（Iónia Nisiá）ですが、ヴェネツィア支配時代にはイタリア語名が、それが英語名にも影響を与えています。また、「七つの島」を意味する「Επτάνησα」（Eptánisa）という名称も広く使われています。

地理

主要な7島は、北からケルキラ島、パクシ島、レフカダ島、イタキ島、ケファロニア島、ザキントス島、そして南端のキティラ島です。これらの島々は、ギリシャ本土の西岸に沿って連なり、特に北側の6島は本土に近い位置にあります。一方で、キティラ島はペロポネソス半島の南沖に位置しています。

歴史

古代ギリシャ時代: イオニア諸島には、紀元前1200年頃にはギリシャ人が住んでいたと考えられています。しかし、古代ギリシャ時代には、本土の政治史に大きな影響を与えることはありませんでした。ただし、ケルキラ島（ケルキュラ）をめぐるコリントスとの争いが、ペロポネソス戦争のきっかけの一つになったとされています。また、ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」では、主人公オデュッセウスの故郷としてイタキ島が登場しますが、実際の島の位置関係とは一致しない点が指摘されています。

ローマとビザンツによる支配: 紀元前4世紀までには、イオニア諸島はマケドニア王国の支配下に入り、その後ローマ帝国、そして東ローマ帝国（ビザンツ帝国）の支配を受けました。8世紀には、ケファレニア軍管区として組織され、しばしばイスラム帝国の攻撃を受けました。12世紀には、シチリア王国によって占領される地域もあり、1357年にはレウカディア公国が成立しました。1204年の第四回十字軍によって、一時的に東ローマ帝国が崩壊し、ヴェネツィア共和国がケルキラ島などを獲得しました。

ヴェネツィアによる支配: ヴェネツィア共和国は、徐々にイオニア諸島全体への影響力を強め、15世紀までには全域がヴェネツィア領となりました。オスマン帝国がギリシャ本土を支配する中でも、イオニア諸島はキリスト教側の領域として残り、ギリシャ語が話される地域で唯一オスマン帝国の支配を免れた地域となりました。このため、ギリシャ独立運動の拠点となり、ナショナリズム意識が高まりました。

ナポレオン時代: 1797年、ナポレオン1世がヴェネツィアを占領し、イオニア諸島はフランス領となりました。その後、ロシアの占領を経て、1800年にはロシアとオスマン帝国の保護国として七島連合共和国が建国されました。しかし、1807年にはフランスの支配下に戻りました。

イギリスによる統治: 1809年以降、イギリスはイオニア諸島を徐々に占領し、1815年にはイギリスの保護国としてイオニア諸島合衆国が樹立されました。イギリスの統治下では、教育や司法制度が整えられ、イギリス文化が導入されました。この時期に、レフカダ島で小泉八雲（ラフカディオ・ハーン）が生まれています。

ギリシャによる統治: ギリシャ独立戦争後、イオニア諸島ではギリシャへの統合を求める声が高まり、1864年にギリシャに返還されました。第二次世界大戦中にはイタリアとドイツによる占領を受けましたが、戦後、再びギリシャの一部となりました。現在に至るまで、イオニア諸島は政治的に左翼支持の傾向が続いています。

社会と文化

伝統的に漁業や農業が主な産業でしたが、現在では観光業が最も重要な産業となっています。特にケルキラ島は人気が高く、クルーズ船の寄港地としても賑わっています。イオニア諸島は、その歴史と多様な文化が織りなす魅力的な観光地として、多くの人々を魅了しています。

行政区画

現在のイオニア諸島地方は、ケルキラ、レフカダ、ケファロニア、ザキントス、イタキの5つの行政区で構成されています。かつては県として存在していましたが、地方制度改革によって、ペリフェリアキ・エノティタ（県に相当する行政区画）となりました。また、各県には、基礎自治体である市（ディモス）が7つ存在します。

文化と観光

イオニア諸島は、美しい自然景観と、歴史的な建造物が数多く残されており、観光地として人気があります。特にケルキラ旧市街はユネスコ世界遺産に登録されています。また、イオニア諸島を舞台にした作品としては、「コレリ大尉のマンドリン」が有名です。

主要な出身者

イオニア諸島からは、様々な分野で活躍した人物が輩出されています。主な人物としては、日本で活躍した文学者である小泉八雲（ラフカディオ・ハーン）、ギリシャの政治家であるイオアニス・メタクサス、イギリス女王エリザベス2世の夫であるエディンバラ公フィリップなどがいます。

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