キドカラー (飛行船)

キドカラー号

「キドカラー号」は、戦後日本において、初めて民間企業によってチャーターされた商用軟式飛行船「飛龍号」の愛称です。特に「日立キドカラー号」という通称が広く知られていますが、これはスポンサーとなった日立製作所が、自社製のカラーテレビ「キドカラー」の宣伝にこの飛行船を用いたことに由来します。

機体の概要と来日までの経緯

この飛行船はグッドイヤー社製でした。かつてアメリカ海軍の練習船として運用された後、民間に払い下げられ、さらに西ドイツの百貨店シュバーブ社を経て日本に導入されたもので、製造からすでに25年が経過した中古機でした。オーバーホールは施されていたものの、その日本での活動期間はわずか7ヶ月余りという短いものに終わります。

機体の具体的なスペックは以下の通りです。

全長: 49メートル
高さ: 18メートル
最高時速: 95 km/h
巡航時速: 65 km/h
連続飛行時間: 17時間

浮揚ガスにはヘリウムが使用され、その量は約4000立方メートルに達し、運搬には7立方メートルのガスボンベが600本も必要でした。

日本での飛行船事業実現に向けた動きは、すでに1960年代半ばから見られましたが、当時の飛行船は非常に高価であり、限られた資金では新品はおろか、中古機のチャーター費用の交渉すら困難な状況でした。具体的には、1967年に西ドイツのシュバーブ社が所有していたD-LISA号のチャーターを目指しましたが不成立に終わります。翌年、シュバーブ社がシンガー社に買収されたことを機に、関係者はチャーターから機体そのものの買収へと方針を転換。交渉の結果、50万マルク（当時のレートで約4500万円）での購入が成立し、ようやく戦後日本に飛行船が再び姿を見せる運びとなりました。

しかし、1年以上に及ぶ導入交渉の過程では、一旦内定したスポンサーが撤退したり、新たなスポンサー候補との間でチャーター費用の値引き交渉が繰り返されるなど、多くの曲折がありました。最終的に、日立製作所が日本における飛行船広告の最初のスポンサーとして決定したのです。

1968年7月初め、飛行船は5個の大きな木箱に梱包され、名古屋港に到着しました。当初は7月20日の初飛行を目指しましたが、税関手続きや岐阜県の川崎重工業各務原飛行場への移動、機体の組み立て、広告の貼り付け、そしてヘリウムガスの注入などに予想以上に時間を要し、大幅に遅延しました。これにより、飛行の実現を疑問視するような情報が流れ、マスコミからも批判的な論調が見られるなど、逆風にさらされた時期もありましたが、ようやく1968年9月1日、約40日遅れで日本国内での初飛行に成功しました。

活動と終焉

初飛行後、9月12日には岐阜県各務原市から茨城県龍ケ崎市までの長時間フライトを実施。各地で飛行船を一目見ようと多くの見物客が押し寄せ、交通渋滞を引き起こすといった現象も見られました。

10月18日に営業飛行が開始されてからは、ザ・ピーナッツが歌う「日立キドカラーの歌」を搭載スピーカーから流しながら、日本各地を巡りました。飛行船の出現は各地で熱狂的な歓迎を受け、文字通りの「飛行船フィーバー」が巻き起こりました。各地の係留地には数百台の車両と数千人規模の見物客が詰めかけ、時には混乱を招くほどでした。

しかし、その短い生涯は突然終わりを迎えます。1969年4月4日の夜、徳島県徳島市の津田海岸町に位置する埋立地に係留されていたキドカラー号は、夜10時頃、風速30mを超える猛烈な暴風に見舞われました。係留マストを固定するワイヤが切断されたことをきっかけに、機体は激しく揺れ動き、制御不能な状態に陥りました。安全確保のため、スタッフは最終手段として機体の一部（リップパネル）を開放し、内部のヘリウムガスを放出することで事態の収拾を図りました。この災害により、キドカラー号はその短い活動を終えることとなりました。

その後の影響

キドカラー号の活動終了後、日立の広報戦略における移動宣伝媒体の役割は、新たに登場した宣伝列車「日立ポンパ号」へと引き継がれました。また、キドカラー号を運用していた日本飛行船株式会社はその後まもなく解散しましたが、飛行船広告への関心は失われず、他の企業が新たな飛行船事業を模索しました。1971年9月にはオリエント飛行船株式会社が設立され、積水ハウスがスポンサーとなった飛行船「レインボー号」が登場するなど、飛行船広告の試みは継承されていきました。

時代が下り、2004年にはタカラからラジコン飛行船「SKYSHIP」シリーズのひとつとして、キドカラー号が模型化され発売されています。

キドカラー号の主な歴史

1942年: アメリカ海軍の練習船（TZ123000型、L-0019号）として運用開始。
1955年: アメリカ海軍から民間に払い下げられる（N65N号）。
1956年: 西ドイツに売却され、D-LAVO号となる。
1957年: 西ドイツの百貨店シュバーブ社の自家用広告船となり、D-LISA号となる。
1968年: 日本飛行船株式会社が50万マルクで買収し、飛行船キドカラー号（JA1001）となる。
1968年9月1日: 日本国内で初飛行に成功。
1968年10月18日: 営業飛行を開始。
* 1969年4月4日: 徳島市にて強風により崩壊。

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