キネトプラスト類

キネトプラスト類（Kinetoplastid）は、その名が示す「キネトプラスト」という特別な細胞内構造を持つ鞭毛虫の一群です。このグループには、人間や家畜に深刻な感染症を引き起こす寄生性の種（リーシュマニア、トリパノソーマ）が含まれる一方、土壌や水中に広く分布する自由生活性の種も数多く知られています。かつては分類学上の「目」（Kinetoplastida）として扱われていましたが、現在ではユーグレナ藻類と近縁であることが明らかになり、ユーグレノゾア門に属する独立した「綱」（キネトプラスト綱 Kinetoplastea）として位置づけられるのが一般的です。別名「動原核類」とも呼ばれます。

形態と分子の特徴

キネトプラスト類最大の特色は、鞭毛の根元付近にある「キネトプラスト」です。これは発達したミトコンドリア核様体、つまりミトコンドリア内に含まれるDNA構造で、電子顕微鏡で見える繊維状のネットワークとして捉えられます。ミトコンドリア自体は細胞内に単一で網状に広がり、団扇（うちわ）型のクリステを持ちます。

鞭毛は通常、前方と後方にそれぞれ1本ずつ伸びる計2本を持ちますが、先行鞭毛を欠く種や、後曳鞭毛が細胞に付着して「波動膜」を形成する種もいます。鞭毛に非管状の小毛が見られることもあります。

また、このグループは分子生物学的にも特異なシステムを持ち、学術的な注目を集めています。例えば、全てのメッセンジャーRNA（mRNA）の先頭に共通の配列が付加されるトランス・スプライシングや、ミトコンドリアmRNAにおける非常に複雑なRNA編集などがあります。さらに、解糖系酵素が膜に囲まれた特殊な小器官「グライコソーム」内に局在することも特徴です。

生態

キネトプラスト類の生態は非常に多様です。自由生活性の種は、湿った藁、家畜の糞、土壌や汽水域といったバクテリアが豊富な環境に生息し、鞭毛で活発に泳ぎ回りバクテリアを捕食して生活します。栄養不足時には、環境の変化に耐えることができる「シスト」を形成して休眠するものが多いです。

一方、寄生性の種は医学的・獣医学的に非常に重要です。例えば、トリパノソーマ属はアフリカ睡眠病やシャーガス病などの原因となり、リーシュマニア属はリーシュマニア症を引き起こし、いずれも人間に深刻な被害をもたらします。また、魚類においても、Ichtyobodo necator（イクチオボド症）やCryptobia、Trypanoplasma（クリプトビア症）などが病原体として知られ、養殖業などに影響を与えています。

分類

近年の微細構造観察や分子系統解析の結果、キネトプラスト類はユーグレナ藻類と近縁であり、原生生物のユーグレノゾア門に属することが明らかになりました。このため、分類学上の階級が「綱」に昇格され、キネトプラスト綱（Kinetoplastea）として扱われるのが一般的です。

この綱は主にプロキネトプラスト亜綱とメタキネトプラスト亜綱に分かれ、さらに形態や分子情報に基づいて複数の目に細分されています。これには、全て寄生性で重要な病原体を含むトリパノソーマ目（Trypanosomatida、リーシュマニア属やトリパノソーマ属など）、そして主に自由生活性でキネトプラストの形状や鞭毛の特徴で区別されるボド類に関連する目（プロキネトプラスト目、ネオボド目、パラボド目、ユーボド目など）が含まれます。

分類の歴史としては、かつてトリパノソーマ科とボド科が独立して扱われていましたが、1960年代にキネトプラストを共有するグループとして「キネトプラスト目」にまとめられました。その後、ボド科からキネトプラストを持たない生物が除外されるなど定義が整理され、分子情報に基づき現在の「綱」に昇格される流れとなりました。

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