ユーグレノゾア

ユーグレノゾア（Euglenozoa）

ユーグレノゾアは、活発な運動性を持つ藻類として知られるミドリムシが分類されるユーグレナ植物門と、ヒトにアフリカ睡眠病などの深刻な疾患を引き起こす寄生性のトリパノソーマ類などが属するキネトプラスト類を一つにまとめた、真核生物の大きな分類グループです。この分類群は、1981年にイギリスの生物学者であるトーマス・キャバリエ＝スミスによって提唱されました。

概要

このグループには、水中で自由に生活する多くの鞭毛虫に加え、重要な病原体を含む少数の寄生性生物が含まれています。そのサイズは多様で、大部分の種は体長15〜40マイクロメートル（μm）程度と微小ですが、中にはユーグレナ植物のように体長が500μmにも達する大型種も存在します。

ユーグレノゾアの生物の多くは、細胞の前端にある窪み（アピカルポケット）から生じる二本の鞭毛を持っています。通常、一本の鞭毛は前方に伸びて推進力を生み出し、もう一本は後方に引きずるか、あるいは退化して短くなっています。後方の鞭毛が非常に短い場合、窪みから外に出ないため、光学顕微鏡で観察すると一本の鞭毛しかないように見えることがあります。

この窪みの近くには、小さな餌生物を捕らえるための捕食装置（サイトストーム）がしばしば見られます。この構造は、鞭毛の根元から伸びる支持構造（鞭毛根）の一つによって支えられており、ユーグレノゾアに共通する重要な特徴の一つです。

多くのユーグレノゾアは、バクテリアなどの微小な獲物を捕食するか、細胞表面から栄養分を吸収（吸収栄養）して生活しています。吸収栄養は寄生性の種だけでなく、自由生活性で捕食と併用する種でも見られます。一方で、ユーグレナ植物の大部分は葉緑体を持ち、光合成によって自ら栄養を作り出す独立栄養生活を営んでいます。光合成を行う種は、光の方向を感知するための眼点と呼ばれる構造を備えていることが多いです。

ユーグレナ植物の持つ光合成色素の組成は、陸上植物のそれに似ており、これは彼らの葉緑体がかつて緑藻類を細胞内に取り込んだ二次共生によって獲得されたものであることを示唆しています。

ユーグレノゾア共通の特徴

ユーグレノゾアは、光合成を行う藻類から寄生性の病原体まで、非常に多様な生活様式を持つ生物を含みます。しかし、このグループが単一の祖先から進化した単系統群であることは、形態的な特徴と分子的な特徴の両面から強力に支持されています。

分子形質

生物間の類縁関係を探る上で広く用いられる18S rRNA遺伝子の配列解析をはじめ、様々な分子を用いた研究が行われています。これらの多くの分子データは、ユーグレナ植物とキネトプラスト類が非常に近縁であり、共通の祖先を持つ単系統群であることを支持しています。

形態形質

ユーグレノゾアには、他の多くの真核生物には見られない独特な形態的特徴があります。

ミトコンドリア: ミトコンドリアの内膜が形成するクリステ（ひだ構造）が、団扇のような盤状である点が特徴的です。この特徴は、ユーグレノゾアを含むより大きな分類群である「盤状クリステ類」に共通するものです。

鞭毛:
鞭毛の軸糸に沿って、「パラキシアルロッド」と呼ばれる特殊な桿状構造が存在します。
鞭毛には細い小毛を持つ種がいます。これは不等毛藻に見られる管状の小毛とは異なり、非常に細い非管状の小毛です。
三つの異なる位置から生じる微小管性の鞭毛根（背側、中間、腹側）を持ち、これらの生じる位置に相同性が見られます。捕食性の種では、特に腹側鞭毛根が捕食装置に向かって伸びています。

細胞分裂: 核膜が分裂中も完全に残存する（完全閉鎖型）核分裂を行います。また、染色体が細胞の中央に整列する中期赤道板は形成されません。現在のところ、ユーグレノゾアにおける有性生殖は確認されていません。

分類

ユーグレノゾアは、分子情報に基づいた現代的な分類体系（例: Adl et al. 2012）において、盤状クリステ類（Discicristata）の中に位置づけられています。ユーグレノゾアの内部は、大きく以下の主要なグループに分けられています。

ユーグレナ類（Euglenida）: 従来いくつかの目に分けられてきましたが、主に光合成を行うユーグレナ藻（Euglenophyceae）、捕食性のHeteronematina、浸透栄養性のAphageaなど、異なる栄養様式を持つグループを含んでいます。
ディプロネマ類（Diplonemea）: 主に海産の自由生活性または寄生性のグループ。
Symbiontida: 比較的新しく認識された、他の生物と共生するグループ。
キネトプラスト類（Kinetoplastea）: アフリカ睡眠病の原因となるトリパノソーマ類（Trypanosomatida）を含む、自由生活性および寄生性の多様なグループ。ミトコンドリア内にキネトプラストというDNAの塊を持つことが特徴です。

これらの分類群は、それぞれ独自の進化を遂げながらも、ユーグレノゾア共通のユニークな特徴を共有しています。ユーグレノゾアの研究は、真核生物の初期進化や、光合成能や寄生性の獲得といった重要な現象を理解する上で、非常に重要な手がかりを与えてくれます。

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