キビ亜科

キビ亜科 (Panicoideae)

キビ亜科は、イネ科に属する大きなグループであり、約200属3000種以上を含みます。キビ、アワ、トウモロコシ、サトウキビなど、人類にとって重要な作物が多く含まれる一方で、メヒシバやイヌビエといった雑草も存在し、私たちの生活に深く関わっています。

概要

キビ亜科の植物は、小穂の形や全体の姿が多様ですが、小穂の基本的な構造には共通点があります。通常、小穂は2つの小花から構成され、そのうち1つは退化しており、先端の小花のみが稔性を持つという特徴があります。また、多くの種がC4植物であり、強い光や高温下でも効率的な光合成が可能です。

特徴

形態: 一年生または多年生の草本で、葉は線形の細長い形をしています。
花序: 円錐花序や総状花序を形成し、小穂が密集して生じることもあります。
小穂: 両性または単性で、単独または対になってつきます。2つの小花を含み、腹背方向に扁平です。
その他: 穎果には大きな胚があり、穎果の1/3〜1/2を占めます。

小穂の構造

イネ科の小穂は、一般的に多数の小花が軸に沿って並び、各小花は護穎と内穎という2枚の穎を持ちます。しかし、キビ亜科では小花の退化や分化が見られ、分類上重要な特徴となっています。キビ亜科の小穂の型として、以下の3つが挙げられます。

1. トダシバ型: 包穎と基部側の2つの小花のみが残り、先端側は退化します。第2小花は両性花で、第1小花は雄性花です。
2. エノコログサ型: 第1小花がより退化し、護穎のみとなります。第2小花は護穎と内穎が大きくなり、果実を保護します。
3. モロコシ型: 第1小花は護穎のみを残し、第2小花は両性花ですが、護穎と内穎は薄い膜質で、包穎が厚くなり小穂全体を包みます。

これらの型は、2つの小花を持ち、第1小花が退化しているという点で共通していますが、外見や機能は大きく異なります。特にモロコシ型は、小穂や花序の外見が多様で、判別が難しい場合があります。トウモロコシのように、雌雄の小穂が異なる穂に分かれて生じる例もあります。

分布と属種

キビ亜科は世界中に広く分布し、特に熱帯地域に多く見られます。代表的な属としては、以下のものがあります。

ウシクサ連: ススキ属、チガヤ属、トウモロコシ属など
キビ連: メヒシバ属、エノコログサ属、キビ属など
トダシバ連: トダシバ属

光合成

キビ亜科には、トウモロコシをはじめとするC4植物が多く含まれています。C4植物は、高温や乾燥に強いという特徴があり、効率的な光合成を行うことができます。ただし、キビ亜科にはC3植物も存在し、光合成のタイプは多様です。

経緯

キビ亜科は、18世紀からイネ科の分類群として認識されてきました。当初は小穂の形態に基づいて分類されていましたが、20世紀以降は葉の解剖学的特徴やデンプン粒の特徴なども考慮されるようになりました。近年では、分子系統学的な解析も進められ、キビ亜科の単系統性が支持されています。

分類

イネ科は、大きく2つのクレード（BEPクレードとPACCADクレード）に分かれます。キビ亜科はPACCADクレードに含まれ、2つの小花からなる小穂やデンプン粒の性質など、独特の特徴を持っています。

キビ亜科の下位分類として、ウシクサ連、キビ連、トダシバ連など、いくつかの連が認識されていますが、その詳細な分類は現在も研究が進められています。

人間との関係

キビ亜科は、人類にとって非常に重要な植物群です。トウモロコシ、キビ、アワなどの穀物は、世界中で食料として利用されています。また、サトウキビは砂糖の原料となり、牧草や芝生としても広く栽培されています。一方で、チガヤやメヒシバのように、雑草として扱われる種も存在します。

文化的な側面では、秋の七草であるススキやカルカヤもキビ亜科に属し、日本の風景に欠かせない存在となっています。

参考文献

大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司・木原浩 編『改訂新版 日本の野生植物 2 イネ科～イラクサ科』、2016年3月22日、平凡社、ISBN 978-4582535327。
長田武正『日本イネ科植物図譜（増補版）』、1993年5月1日、平凡社、ISBN 978-4582506136。
木場英久・茨木靖・勝山輝男『イネ科ハンドブック』、2011年3月4日、文一総合出版、ISBN 978-4-8299-1078-8。
* 茨木靖・木場英久・横田昌嗣『南のイネ科ハンドブック』、2020年4月21日、文一総合出版、ISBN 978-4-8299-8135-1。

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