キプロス紛争

キプロス紛争：地中海の島を分断する民族対立の歴史

キプロス紛争は、1955年から現在に至るまで、キプロス島で継続しているギリシャ系住民とトルコ系住民間の対立に起因する紛争です。その背景には、オスマン帝国の支配、イギリスによる植民地化、そして民族主義の高揚といった複雑な要因が絡み合っています。

オスマン帝国の支配と民族対立の芽生え

キプロス島は、紀元前から地中海の交易拠点として栄え、ギリシャ人が多数居住していました。1571年にオスマン帝国に占領されると、トルコ人が移住し始め、ギリシャ系住民とトルコ系住民の共存が始まりました。しかし、1821年のギリシャ独立戦争を機に、両者の間に民族的な対立の芽が生じ始めます。

イギリスの支配と分断政策

1878年、露土戦争後の秘密協定により、イギリスはキプロス島の統治権を獲得。1914年には第一次世界大戦勃発を機にキプロスを併合し、植民地としました。イギリスは、ギリシャ系住民とトルコ系住民を分断する政策を採り、両者の対立を煽りました。ギリシャ系住民はギリシャとの統合（エノシス）を、トルコ系住民はトルコとの統合を望むようになり、民族主義的な運動が活発化しました。

独立と内戦、そして分断

第二次世界大戦後、ギリシャ系住民はエノシスを強く求めましたが、イギリスはこれを拒否。1955年、ギリシャ系のゲオルギオス・グリヴァス将校が、キプロス解放民族組織（EOKA）を結成し、イギリスに対する武装闘争を開始しました。これに対し、トルコ系住民もトルコとの統合を求め、武装組織を結成。1960年、キプロスはイギリス連邦の一員として独立しましたが、民族対立は解消されず、1963年には内戦が勃発しました。

1974年、ギリシャ軍事政権によるクーデターが発生。トルコはこれを機に軍事介入を行い、キプロス島の北部を占領しました。その結果、キプロス島は南北に分断され、北部にはトルコ系住民による北キプロス・トルコ共和国が樹立されました（ただし、トルコ以外の国は承認していません）。

現在のキプロス

現在、キプロス島は、首都ニコシアを含む地域が南北に分断され、国連の管理下にある緩衝地帯（グリーンライン）によって隔てられています。南側はキプロス共和国としてEUに加盟していますが、北側は北キプロス・トルコ共和国として、国際的には承認されていません。

両者の間では、和平交渉が続けられていますが、領土問題や住民の帰還問題など、解決すべき課題は山積しています。2004年には、キプロス全体の統一に関する住民投票が行われましたが、ギリシャ系住民の反対により否決されました。

2008年には、ニコシアのレドラ通りに検問所が開設され、南北間の往来が可能になりましたが、依然として分断状態は続いています。キプロス紛争は、民族対立、大国の思惑、そして国際社会の関与が複雑に絡み合った、現代の国際紛争の縮図と言えるでしょう。紛争の解決には、両者の相互理解と協力、そして国際社会の建設的な関与が不可欠です。

参考文献
リチャード・クロッグ著・高久暁訳『ギリシャの歴史』創土社、2004年。ISBN 4-789-30021-8。
桜井万里子編『ギリシア史』山川出版社、2005年。ISBN 4-634-41470-8。
* 大島直政著『複合民族国家キプロスの悲劇』新潮社、1986年。ISBN 4-10-600315-5。

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