キャデラック・ドゥビル

キャデラック・ドゥビル（Cadillac DeVille）は、アメリカの自動車メーカー、ゼネラルモーターズ（GM）が製造を手がけ、同社の高級車部門であるキャデラックブランドから市場に投入された大型セダンモデルです。

概要と名称の由来

「DEVILLE」という名前は、フランス語で「都市」や「街」を意味する言葉に由来しています。この名称は、かつてアメリカ本国で「DeVille」と綴られていましたが、日本語で表記した際に「デビル」（Devil、悪魔）と混同されることを避けるため、特に日本市場においてはフランス語の発音に倣った「ドゥビル」という表記が採用されました。これ以前、日本国内ではフリートウッドエレガンスやコンコースといった名称でキャデラックの大型モデルが販売されていましたが、このモデルからは新たな名称として「ドゥビル」が用いられることになりました。

歴史

ドゥビルは、1959年に初代モデルが誕生して以来、長期間にわたりキャデラックの主力モデルの一つとして位置づけられました。歴代モデルは以下の通りです。

初代：1959年 - 1960年
2代目：1961年 - 1964年
3代目：1965年 - 1970年
4代目：1971年 - 1976年
5代目：1977年 - 1984年
6代目：1985年 - 1993年
7代目：1994年 - 1999年
8代目：2000年 - 2005年

合計8世代にわたって生産され、キャデラックの歴史において重要な役割を果たしました。

メカニズムと技術

このモデルは、GMが開発したKプラットフォームを基盤としています。同じプラットフォームを用いたセビルが、日本やイギリスなどの左側通行国も視野に入れた右ハンドル仕様を含む世界戦略車であったのに対し、ドゥビルは主にアメリカ、カナダ、中東といった特定の市場に向けた展開であったため、製造されたのは左ハンドル仕様のみでした。生産は、ミシガン州にあるデトロイト・ハムトラミック組立工場で行われました。

パワートレインには、V型8気筒4.6リッターのノーススターエンジンが心臓部に据えられ、これに4速ハイドラマチックオートマチックトランスミッションが組み合わされました。トランスミッションの操作部は、上位グレードであるDTSではフロアタイプが採用された一方、標準車およびDHSグレードではコラムタイプが設定されています。駆動方式はフロントエンジン・フロントドライブ（FF）を採用していました。

グレード構成と特徴的な装備

ドゥビルは、標準グレードの他に、ラグジュアリー性を高めた「DHS」（DeVille Highluxury Sedanの略）と、よりスポーティな性格を持つ「DTS」（DeVille Touring Sedanの略）というグレードが用意されていました。エンジンの仕様に関しては、標準車とDHSには出力性能を重視したエンジンが搭載されていましたが、DTSにはさらに出力とトルクを向上させた高出力版エンジンが採用されています。

特筆すべき装備としては、乗用車としては世界で初めてメーカーオプションとして設定されたナイトビジョンシステムが挙げられます。このシステムは、暗闇での視認性を向上させる先進的な技術であり、導入当初は高額ながら比較的高い装着率を誇りました。しかし、時間の経過とともに装着率が低下し、2002年にオプション設定から廃止されました。

市場展開と日本での販売

前述の通り、ドゥビルは特定の市場に特化したモデルであり、日本市場へは1999年11月に正式に投入されました。日本向けに導入されたのは、中間グレードにあたるDHSにナビゲーションシステムなどが標準装備されたコラムシフト仕様のみでした。これは、最上位グレードのDTSに搭載される高出力エンジンが、既に日本で販売されていたセビルのエンジン仕様と競合することを避けるための措置と考えられます。また、特徴的なナイトビジョンシステムについても、日本国内での導入には時間を要しました。当初、運輸省（現在の国土交通省）による認可が遅れたため、オプション設定となったのは2000年 4月に発売された2000年モデルからとなりました。このナイトビジョンは、サンルーフや本革シートなどを含むセットオプションの一部として提供され、約83万円という価格設定でした。

名称の変遷、そして終焉

2005年2月9日に行われたマイナーチェンジを機に、ドゥビルの名称は姿を消しました。この時発表された後継モデルには、かつてグレード名として親しまれていた「DTS」が新たなモデル名として採用されることになったのです。これにより、1959年の初代登場から半世紀以上にわたってキャデラックの主要モデルの一つとして存在し続けた「ドゥビル」の名前は、その歴史に幕を下ろしました。ただし、その名称の一部は、後継モデルであるキャデラックDTSに受け継がれたと言えるでしょう。

ドゥビルは、キャデラックの歴史において、その時代の最先端技術を取り入れつつ、アメリカンラグジュアリーセダンの伝統を体現したモデルとして記憶されています。

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