キャデラック・CTS-V

キャデラック CTS-V

キャデラック CTS-Vは、米国の自動車メーカーであるゼネラルモーターズ（GM）が製造・開発し、キャデラックブランドから販売していた高性能モデルです。

概要

2000年代初頭、キャデラックは世界市場での販売不振や顧客層の高齢化といった課題に直面していました。こうした状況を打開し、より若い世代の顧客獲得や海外展開を加速させるため、2003年に小型セダンであるCTSを投入しました。その翌年、2004年には、シボレー・コルベット譲りのパワフルなV8エンジンを搭載したCTSの高性能バージョン、CTS-Vが誕生します。

CTS-Vの開発にあたり、キャデラックは新たなデザインフィロソフィー「アート＆サイエンス」に基づく高性能車専用のサブブランド「キャデラック・Vシリーズ（通称「V」シリーズ）」を立ち上げました。この「V」シリーズは、メルセデス・ベンツのAMG、BMWのM、アウディのRSといった、欧州を代表する高性能スポーツモデルと肩を並べることを目指していました。

初代（2004年 - 2007年）

初代CTS-Vは、2003年に登場したCTSをベースとして、2004年モデルとしてラインナップに追加されました。当初はコルベットC5に採用されていた5.7L V8エンジン「LS6」を搭載していましたが、コルベットがC6へ刷新されたことに伴い、2006年には6.0L V8の「LS2」に変更されています。

欧州のスポーツセダンに匹敵する走行性能を実現するため、CTS-Vは単なるエンジン換装に留まらず、シャシーや足回りも徹底的に見直されました。高剛性のアンチロールバーや硬められたスプリング、高性能ショックアブソーバーなどが装備され、ベース車とは一線を画す走行性能を獲得しています。ブレーキシステムにはブレンボ製が採用され、約14インチのディスクローターと4ピストンキャリパーが前後に装着されました。トランスミッションは、スポーティな走りを重視してトレメック製の6速マニュアルトランスミッションのみが設定され、燃費向上のためのスキップシフト機能も搭載されています。

外観においてもベース車との差別化が図られ、専用デザインのメッシュグリルやフロントバンパー、大径化されたホイールが採用されました。

動力性能は、0-60マイル（約96km/h）加速が4.6秒、0-400m加速が13.1秒（終速175km/h）、最高速度は公称値で262km/hを誇りました。また、ドイツのニュルブルクリンク北コースでは8分19秒のラップタイムを記録しています。

2007年、ベース車両であるCTSのモデルチェンジに伴い、初代CTS-Vの生産は終了しました。

2代目（2009年 - 2014年）

2代目CTSが2008年に登場した翌年、2009年にはベース車両を2代目CTSに刷新した2代目CTS-Vが生産を開始しました。2代目CTSにはセダンに加え、クーペやスポーツワゴンといったボディタイプが存在しましたが、CTS-Vはこれら全てのボディバリエーションに設定されました。

搭載されたエンジンは、シボレー・コルベットC6 ZR1に採用されたユニットを基にした6.2L V8スーパーチャージドエンジン「LSA」です。圧縮比をわずかに調整し、ピストン素材を変更したこのエンジンは、最高出力564ps、最大トルク76.0kgmを発生し、これは当時のキャデラック史上最も強力なエンジンでした。

トランスミッションは、トレメック製ツインクラッチを備えた6速マニュアル（TR-6060）と、トルクコンバーター式の6速オートマチック（6L90）が用意されました。6ATにはパドルシフトが装備され、手動での変速操作も可能でした。

足回りには、ミシュラン製の高性能タイヤ「パイロットスポーツPS2」を装着した19インチアルミホイールが標準装備されました。サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン式、リアがマルチリンク式で、路面状況に応じてダンパーの減衰力を電子制御するマグネティックライドコントロール技術が採用されています。ブレーキシステムは引き続きブレンボ製を採用し、フロントには6ピストン、リアには4ピストンキャリパーと14インチのベンチレーテッドディスクが組み合わされました。トラクション性能を高めるリミテッドスリップデフ（LSD）も標準装備されています。

これらの高性能パーツとボディ剛性の向上により、2代目CTS-Vは優れた動力性能を発揮しました。静止状態から時速60マイル（約96km/h）までの加速タイムは、6AT搭載車が3.9秒、6MT搭載車が4.1秒を記録。特に、ニュルブルクリンク北コースでは、セダン仕様車が当時の4ドアセダン最速記録となる7分59秒32をマークし、世界的な注目を集めました。

2代目CTSの質感向上を受け、2代目CTS-Vのインテリアも大幅に改良されました。黒曜石を思わせるトリムやレザーシートが採用され、車内空間の質感が向上しています。また、5.1ch対応のBOSEサラウンドサウンドシステム、楽曲保存が可能な40GBのHDD、DVD/CDプレイヤー、そして気象情報や渋滞情報を地図上に表示できるVICS対応ボイスコントロール付きナビゲーションシステムなど、先進的なエンターテイメント機能も充実していました。電子制御パーキングブレーキやクルーズコントロール、横Gインジケーターといった機能も標準装備されています。オプションとしてサンルーフも設定されました。

外装デザインにおいても、2代目CTS-Vは専用パーツが多く採用されています。ベースモデルが格子状のグリルと開口部の狭いロアーグリルを持つのに対し、CTS-Vは吸気効率を高めるメッシュ状のグリルと大型化されたロアーグリル付きの専用バンパーを装備。強力なエンジンを収めるため、ボンネットにはパワーバルジが備わり立体的なデザインになっています。リアバンパーもセダンではスプリッター付きの専用品に変更され、クーペでは「キャデラック・クレスト」を模したような五角形の一体型デュアルマフラーから、よりスポーティな丸形二本出しマフラーに変更されています。ホイールも専用デザインでした。

日本市場には、2代目CTS-Vのセダンとクーペが正規輸入されました。2010年モデルからは、レカロ製14ウェイベンチレーション機能付きパワーシートや、マイクロファイバー素材のステアリングホイールおよびシフトノブなどを標準装備した上級グレード「プレミアム」が追加設定されています。年次改良も行われ、2010年にはバックビューカメラが標準装備化、2012年にはウッドパネルがオプション変更され、ボディカラーのラインナップも入れ替えられました。

2014年、ベースとなるCTSのモデルチェンジに伴い、2代目CTS-Vの生産も終了しました。同年5月には、クーペの限定モデル「CTS-V coupe Final Edition」が500台限定で発表されましたが、これは日本には導入されませんでした。この最終限定モデルは、専用のボディカラー、ブラックグリル、レッドブレーキキャリパー、サテングラファイトホイール、レカロパフォーマンスシート、アルカンターラ製ステアリング、アルミペダル、レッドステッチ内装などを特別装備していました。

CTS-Vは、キャデラックの高性能ブランド「Vシリーズ」を確立し、世界の強豪モデルと伍するキャデラックの技術力とパフォーマンスを内外に知らしめた、重要なモデルと言えるでしょう。

もう一度検索