キュララベース

キュララベース（古希: Κυλαράβης, Kylarabēs）は、古代ギリシア神話において、アルゴス王国の王族に連なる人物です。その名は長母音を省略してキュララベスと表記されることもあります。彼はアルゴスの王ステネロスの子として生まれ、コメーテースという兄弟がいました。

アルゴス王国の歴史を振り返ると、かつて統治していたプロイトス王の家系（アナクサゴラース王家とも呼ばれる）は、ある時期に領土を三つの部分に分割しました。この分与は、有名な予言者メラムプースと、彼の兄弟である勇者ビアースに対して行われたものです。これにより、アルゴスの王権は一時的に分裂し、プロイトス家系、メラムプース家系、ビアース家系という三つの血統がそれぞれの領域を支配する状況が生まれました。

しかし、時が経つにつれて、これらの分家筋は次々と途絶えていきます。まず、メラムプースの子孫に関しては、アムピロコスがトロイア戦争後に故郷アルゴスを離れ、遠くアムピロキアへと移住したことで、アルゴスにおけるその家系の血統は事実上終わりました。次に、ビアースの家系も、キュアニッポスが後継者を一人も残さずに世を去ったことによって、その血統が絶えることとなりました。

このような状況を経て、かつて分有されていたアルゴスの国土は、キュララベースの治世において再び一つの統一体として再統合されることとなりました。彼はプロイトス王家の直系ではありませんでしたが、ステネロスの子としてアルゴスの王位を継承し、分断された領土をその手に収めたのです。これは、長らく分裂していた王権が、彼の代で再び一つの権力の下に集約されたことを意味します。

しかしながら、キュララベース自身もまた、悲劇的な運命に見舞われます。彼は後継者となる子を持たなかったため、その死をもって彼自身の血統も途絶えてしまいました。これにより、プロイトスに始まる古いアルゴスの王統は、キュララベースの代で事実上の終焉を迎えることとなります。

キュララベースの死後、アルゴスの支配権はミュケーナイの著名な王であったアガメムノーンの子、オレステースへと移りました。オレステースは後にアルゴスとミュケーナイの両方を支配する重要な人物となります。

彼の名前は、古代アルゴス市内に残る記録の中にも見られます。パウサニアスの記述によれば、アルゴス市内にはキュララベースの名にちなんだ「キュララビス体育場」と呼ばれる施設が存在したと伝えられており、彼の存在が後の時代まで記憶されていたことを示唆しています。

このように、キュララベースはアルゴス王国の歴史において、分断された領土を再統合した重要な王でありながら、後継者を得られずに王統を終わらせた人物として語り継がれています。

参考文献

アポロドーロス『ギリシア神話』（岩波文庫）
パウサニアス『ギリシア記』（龍渓書舎）

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