キュー宮殿

キュー宮殿：王室の栄光と変遷の物語

ロンドンのテムズ川を挟んで位置するキューガーデンに佇むキュー宮殿は、イギリス王室の歴史を刻む歴史的建造物です。現在の姿は、幾多の改築を経てきた結果であり、その歴史は実に興味深いものです。

城壁宮殿とカペルハウスの時代：初期の歴史

キュー宮殿の起源は、16世紀にさかのぼります。当時の所有者であったレスター伯爵ロバートは、エリザベス1世を招いて盛大な宴を催したと伝えられています。その後、1631年にサミュエル・フォートリーによって大規模な改築が行われ、「ダッチハウス」と呼ばれる現在の宮殿の原型が誕生しました。この名称の由来は、オランダ風の建築様式が採用されたことに起因するといわれています。

ダッチハウスの建設以前には、この地には城壁宮殿とカペルハウスが存在していました。カペルハウスはチューダー朝建築様式を呈しており、多くの著名人が訪れた記録が残されています。1725年には、ジェームズ・ブラッドリーが光行差を観測した場所としても知られています。ブラッドリーの功績を記念して、日時計が設置され、現在もそのレプリカが宮殿敷地内にあります。

王室の住まいとして：ジョージ2世からジョージ3世へ

1728年、ジョージ2世とキャロライン妃は、夏の離宮としてダッチハウスを使用し始めました。その後、王女たちの住まいとなり、皇太子フレデリックのための近隣の「ホワイトハウス」も使用されました。フレデリック皇太子はホワイトハウスの改修を行い、周囲の庭園も整備しました。しかし、1751年にフレデリックは急逝。オーガスタ皇太子妃は、その後もホワイトハウスで子供たちと生活を続けました。

フレデリック皇太子の息子であるジョージ3世は、ダッチハウスを王子たちの教育の場として利用しました。1760年に即位したジョージ3世は、シャーロット妃と15人の子供をもうけました。子供たちの増加に伴い、夏の離宮としてリッチモンドロッジを使用するようになりました。

オーガスタ妃は、キュー宮殿にオランジェリーとパゴダを建設するなど、庭園整備に尽力しました。ジョージ3世もホワイトハウスを改修し、自身の美術コレクションを運び込みました。

城壁宮殿計画とダッチハウスの衰退

1800年頃から、新しい宮殿「城壁宮殿」の建設が計画されました。しかし、ジョージ3世の病気や、建設費用の増加、そして批判的な意見などにより、城壁宮殿の建設は中断。ダッチハウスの使用頻度も減少していきました。ホワイトハウスは取り壊され、城壁宮殿は未完成のまま残されました。

ジョージ3世はダッチハウスに数回立ち寄り、家族と時間を過ごしましたが、1820年に亡くなると、城壁宮殿の解体も決定。ダッチハウスは解体されることなく残されました。ビクトリア女王も一時的に使用しましたが、その後は長年空き家の状態が続きました。

一般公開へ

1996年から大規模な修復プロジェクトが開始され、建物だけでなくインテリアの復元も行われました。2006年には、チャールズ3世（当時皇太子）が晩餐会を開催するなど、再び注目を集めるようになりました。その後、一般公開が再開され、現在では多くの人々が訪れる歴史的建造物として大切にされています。

キュー宮殿は、単なる王室の離宮ではありません。その歴史は、イギリス王室の興亡、建築様式の変遷、そして人々の暮らしを映し出す歴史の鏡です。現在も美しく保存されているキュー宮殿を訪れ、その魅力を体感してみませんか？

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