キョセ・ダグの戦い

キョセ・ダグの戦い：アナトリアの運命を分けた激突

1243年、アナトリア高原のキョセ・ダグ（現在のトルコ）で、ルーム・セルジューク朝とモンゴル帝国軍による大規模な戦闘が勃発しました。この戦いは、アナトリアの歴史における転換点となり、後のオスマン帝国興隆へと繋がる複雑な出来事の始まりを示唆しています。

戦いの背景：モンゴル帝国の影

ルーム・セルジューク朝は、それまでモンゴル帝国と複雑な関係を築いていました。オゴデイ・カンの治世下では貢物をささげることで友好関係を維持していましたが、カイホスロー2世の治世に入ると、状況は一変します。カイホスロー2世は、モンゴルへの人質の送出や、モンゴル人官僚の受容を余儀なくされ、次第にモンゴルの影響下に置かれるようになりました。この従属への抵抗が、やがてキョセ・ダグの戦いを招いた要因の一つと言えるでしょう。

戦いの展開：モンゴルの圧倒的勝利

1242年から1243年にかけて、モンゴル帝国の将軍バイジュ率いる大軍はルーム・セルジューク朝への侵攻を開始しました。エルズルムの包囲を皮切りに、ルーム・セルジューク朝は近隣諸国に援軍を求めましたが、トレビゾンド帝国からの小規模な支援にとどまりました。グルジアの貴族の一部も参戦しましたが、多くはモンゴルの支配下にあり、参戦は限定的でした。

1243年6月26日、キョセ・ダグで両軍は激突しました。一次史料にモンゴル軍の正確な兵力は記されていませんが、圧倒的な兵力差があったと推測されます。戦闘は短時間で決着し、ルーム・セルジューク朝軍は壊滅的な敗北を喫しました。モンゴル軍はその後、スィヴァスやカイセリといった主要都市を占領しました。カイホスロー2世はアンタルヤへ逃亡しましたが、最終的にはモンゴルへの臣従を余儀なくされたのです。

戦後のアナトリア：分裂と統一への道

キョセ・ダグの戦いの結果、ルーム・セルジューク朝は弱体化し、アナトリアは数多くの小国家が割拠する混沌とした時代へと突入しました。これらの小国家は互いに勢力争いを繰り広げ、アナトリアは長きにわたる分裂時代を迎えます。この分裂時代は、オスマン帝国が台頭し、アナトリアを統一するまで200年以上も続きました。トレビゾンド帝国もまた、この戦いの敗北によってモンゴルの属国となり、その独立性を失うこととなりました。

キョセ・ダグの戦いの意義

キョセ・ダグの戦いは、アナトリアの歴史における重要な転換点でした。この戦いを境に、ルーム・セルジューク朝は衰退し、アナトリアは長期間の分裂と混乱の時代へと突入しました。この混乱の中で、後にオスマン帝国へと発展する小国家が台頭し、やがてアナトリア全土を統一することになります。キョセ・ダグの戦いは、オスマン帝国の興隆という後の歴史的展開へと繋がる、重要な一石を投じたと言えるでしょう。また、モンゴル帝国の西アジアへの進出を象徴する出来事でもあり、ユーラシア大陸の政治地図を大きく塗り替える出来事の一つとして位置付けられます。

参考文献

井谷鋼造「モンゴル侵入後のルーム」『東洋史研究』39-2、1980年9月
井谷鋼造「モンゴル軍のルーム侵攻について」『オリエント』31-2、1988年
* 林佳世子『オスマン帝国500年の平和』（興亡の世界史10）講談社、2008年

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