ルーム・セルジューク朝

ルーム・セルジューク朝とは

ルーム・セルジューク朝は、11世紀末にセルジューク朝から分裂し、アナトリア半島を拠点として成立したテュルク系のイスラム王朝です。ペルシア語では「سلجوقیان روم Saljūqiyān-i Rūm」、トルコ語では「Anadolu Selçuklu Devleti」と呼ばれます。「ルーム」とは「ローマ」を意味し、かつてビザンツ帝国（東ローマ帝国）領であったアナトリアを指す言葉として使われました。

建国と初期の歴史

建国者であるスライマーン1世は、セルジューク朝の創始者セルジュークの玄孫にあたります。父のクタルミシュはセルジューク朝の王位を争いましたが敗北し、スライマーンは王族としての扱いを受けずに成長しました。1071年のマラズギルトの戦いでセルジューク朝がビザンツ帝国に勝利した後、アナトリアへのテュルク系遊牧民の進出が活発化しました。セルジューク朝のスルターンであるアルプ・アルスラーンは、スライマーンとマンスールの兄弟にアナトリアの統治を命じ、1074年から1075年の間にスライマーンはニカイアを占領しました。1077年にはセルジューク朝からアナトリアの支配権を認められ独立を宣言しますが、「スルターン」の称号は名乗りませんでした。スライマーンはビザンツ帝国と協定を結び、アナトリア南部や東方にも進出しましたが、シリアへ進出したことで他のセルジューク朝の王族との対立を生み、1086年に戦死しました。

スライマーンの死後、幼少だった息子のクルチ・アルスラーン1世はホラーサーンに召還されました。アナトリアでは各地の領主が独立し、セルジューク朝の支配領域は一時的に縮小しました。しかし1092年にクルチ・アルスラーン1世は解放され、アナトリアの統治を命じられます。1096年に第1回十字軍がアナトリアに上陸し、ニカイアを包囲したため、クルチ・アルスラーン1世はニカイアを失い、首都をコンヤに移しました。ルーム・セルジューク朝はダニシュメンド朝と同盟し十字軍と戦いますが、ドリュラエウムの戦いに敗れ、エーゲ海沿岸の地域はビザンツ帝国によって奪還されました。その後、トゥルクマーン勢力が勢力を回復し、十字軍を撃破しました。

首都の変遷と内紛

ドリュラエウムの戦いの後、ルーム・セルジューク朝はアナトリア中央高原地帯に後退し、ダニシュメンド朝とマラティヤの帰属を巡って争いました。新たな首都となったコンヤは一時的にダニシュメンド朝に占領されました。また、セルジューク朝の王位を巡る混乱に乗じて、クルチ・アルスラーン1世はイラクへ進出し、モースルを支配下に置きますが、その後の戦闘で戦死します。クルチ・アルスラーン1世の死後、後継を巡り内紛が発生し、領土の一部はビザンツ帝国とダニシュメンド朝に奪われました。マスウード1世の時代にダニシュメンド朝との戦いが継続し、アンカラ、チャンクルなどを占領します。1147年に第2回十字軍がアナトリアに上陸すると、マスウード1世は十字軍を撃破しました。

ミュリオケファロンの戦いと国内の分裂

マスウード1世の跡を継いだクルチ・アルスラーン2世は、ダニシュメンド朝、ビザンツ帝国、弟のシャーヒンシャーと対立しました。ビザンツ帝国との関係を修復し、1176年にはミュリオケファロンの戦いでビザンツ軍を破り、アナトリアにおけるセルジューク朝の優位を確立しました。1178年にはダニシュメンド朝を滅ぼし、アナトリアの支配を確固たるものとしました。晩年には領土を分割して息子たちに与えたため、後継者争いが起こり、国土は分裂しました。また、第3回十字軍によってコンヤが一時的に占領されるという事件も発生しました。

スライマーン2世が王位を継ぎますが、その後、カイホスロー1世が復位します。カイホスロー1世の復位からカイクバード1世の治世にかけて、ルーム・セルジューク朝は最盛期を迎えます。

最盛期

13世紀に入ると、ルーム・セルジューク朝は地中海に進出し、1207年にはアンタルヤを支配下に置きました。これにより海洋への進出を果たし、ヴェネツィア共和国との通商関係を築きました。1214年には黒海の港湾都市スィノプを獲得し、アナトリア半島を南北に結ぶ交易路を確立し、海洋国家としての性格を強めました。カイカーウス1世は「二つの海のスルターン」を名乗りました。1230年にはホラズム・シャー朝をヤッス・チメンの戦いで破り、アナトリア東部へ支配領域を拡大しました。カイクバード1世の時代には、現在のトルコ共和国のおおよその国境線が成立しました。

キョセ・ダグの戦いとモンゴルへの服属

1237年にカイクバード1世が急死すると、息子のカイホスロー2世が王位を継ぎましたが、ホラズム人の有力者を殺害したことで反乱が発生します。さらに、1240年にはバーバー・イスハークの反乱が起こり、ルーム・セルジューク朝の軍事力の低下が露呈します。1243年にはモンゴル帝国の侵攻を受け、キョセ・ダグの戦いで大敗しました。これによりルーム・セルジューク朝はモンゴル帝国の属国となり、毎年の貢納が課せられました。その後、内紛や飢饉が起こり、アナトリアは混乱しました。カイホスロー2世が亡くなると、後継者争いが発生し、国は東西に分割され、モンゴルの傀儡政権となっていきます。ルーム・セルジューク朝は、モンゴル帝国の意向によってスルターンが擁立される状態となりました。

国家の形骸化と滅亡

モンゴル帝国による支配が進む中、ルーム・セルジューク朝は形骸化し、1277年にはマムルーク朝のスルターン・バイバルスがアナトリアに侵攻しました。ルーム・セルジューク朝の領主たちはモンゴルの報復を恐れて決起せず、バイバルスはエジプトに帰国しました。その後もモンゴルの圧力が強まり、領主たちは暴政を布き、官職の売買も行われました。13世紀末には地方の反乱が頻発し、1308年にマスウード3世が急死すると、後継者が途絶え、ルーム・セルジューク朝は滅亡しました。

社会と文化

ルーム・セルジューク朝の社会は、スルターンを中心とした官僚機構によって統治されました。軍隊は、スルターンの親衛隊であるカプクルと、イクターを与えられたスィパーヒーで構成されていました。地方は、スルターンの兄弟や王子が統治し、沿岸部にはアミーリ・サワーヒルが置かれました。農民は農業に従事し、都市部には職人や商人が居住していました。民族構成は、テュルク系の遊牧民の他に、ギリシャ人、アルメニア人、ユダヤ人などが混在していました。また、アヒーと呼ばれる同業組合が都市部で影響力を持っていました。ルーム・セルジューク朝では、スンナ派のイスラム教が公式の宗教とされ、宗教的平等が保障されていました。

ルーム・セルジューク朝の文化は、ペルシア文化の影響を強く受けており、宮廷ではペルシア語が公用語として使われました。文芸活動も盛んで、ジャラール・ウッディーン・ルーミーなどの著名な詩人が活躍しました。また、アナトリア各地にモスクやマドラサが建設され、建築文化も発展しました。

外交

ルーム・セルジューク朝は、大セルジューク朝やビザンツ帝国、モンゴル帝国と外交関係を持ちました。ビザンツ帝国とは、時には戦い、時には和解を繰り返しました。モンゴル帝国とは、キョセ・ダグの戦い以降は、属国として関係を維持しました。

経済

ルーム・セルジューク朝は、東西交易の中継地として繁栄しました。アナトリアからは、樹脂、木材、銅、銀、絹、じゅうたんなどが輸出され、エジプトやシリアからは香料、砂糖、武器などが輸入されました。交易路にはキャラバンサライが整備され、交易を促進しました。

まとめ

ルーム・セルジューク朝は、アナトリア半島において独自の文化を築き、繁栄を遂げたイスラム王朝でした。しかし、モンゴル帝国の侵攻によって衰退し、最終的に滅亡しました。ルーム・セルジューク朝は、アナトリアのトルコ化を進め、後のオスマン帝国へと繋がる重要な役割を果たしました。

歴代スルターン

スライマーン・イブン＝クタルミシュ（1077年 - 1086年）
クルチ・アルスラーン1世（1092年 - 1107年）
マリク・シャー・イブン＝クルチ・アルスラーン（1110年 - 1116年）
マスウード1世（1116年 - 1155年）
クルチ・アルスラーン2世（1155年 - 1192年）
カイホスロー1世（1192年 - 1196年、1205年 - 1211年）
スライマーン2世（1196年 - 1204年）
クルチ・アルスラーン3世（1204年 - 1205年）
カイカーウス1世（1211年 - 1220年）
カイクバード1世（1220年 - 1237年）
カイホスロー2世（1237年 - 1245年）
カイカーウス2世（1245年 - 1261年）
クルチ・アルスラーン4世（1261年 - 1266年）
カイホスロー3世（1266年 - 1284年）
マスウード2世（1284年 - 1285年、1285年 - 1292年、1293年 - 1300年、1302年 - 1304年）
カイクバード3世（1285年、1292年 - 1293年、1300年 - 1302年、1304年 - 1308年）
* マスウード3世（1308年）

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