キリストの哀悼 (デューラー、ミュンヘン)

『キリストの哀悼』、または『グリムの哀悼』として知られるこの油彩画は、ドイツルネサンスの巨匠アルブレヒト・デューラーによって1500年頃に制作されました。この作品は、イエス・キリストの死を悼む場面を描いたもので、依頼主であるニュルンベルクの金細工師アルブレヒト・グリムの、亡くなった最初の妻マルガレーテ・ホルツマンの追悼のために描かれました。

当初、この絵画はグリムの墓があったニュルンベルクのプレディガー教会に飾られていましたが、後にグリムの息子によって売却されました。現在は、ドイツのミュンヘンにあるアルテ・ピナコテークに所蔵されています。

1924年に後世の加筆が取り除かれたことで、依頼主であるグリムとその3人の息子、そして亡くなった妻の姿が本来の形でよみがえりました。画面右下には亡き妻が、左下にはグリムと子供たちが描かれています。また、画面の左右にはグリム家の紋章が配置されています。

絵画の中心には、アリマタヤのヨセフに支えられ、悲しみに暮れる聖母マリアと、信心深い女性たちに囲まれたイエス・キリストの遺体が描かれています。右側には、福音書記者ヨハネ、マグダラのマリア、ニコデモの3人が対角線上に描かれ、マグダラのマリアとニコデモは、遺体を埋葬するために使われた香油が入った瓶を持っています。

構図は、斜め方向と縦方向の要素が巧みに組み合わされ、画面に緊張感とまとまりを与えています。十字架が立つ丘の頂という設定を利用し、人物群をピラミッド状に配置することで、画面は平面的になり、前景から中景、遠景へと連続する空間は断ち切られています。しかし、この構成が、遠景に広がるデューラーが描いた最も壮大な風景の、色彩を排した透明な美しさを際立たせています。

デューラーによる同主題の油彩画は、ゲルマン国立博物館（ニュルンベルク）やアルテ・マイスター絵画館（ドレスデン）にも所蔵されており、また同主題の版画や素描も多数存在しますが、この作品は特に優れた構成を持つとされています。

この作品は、単なる宗教画としてだけでなく、デューラーの卓越した技術と、依頼主の深い悲しみと愛情が込められた、芸術的な価値の高い作品として評価されています。

作品に描かれた人物の配置や構図、そして遠景の風景は、デューラーの緻密な計算と芸術的センスを表しており、見る者を深く感動させます。また、後世の加筆が取り除かれたことで、作品本来の美しさが蘇り、より一層鑑賞価値が高まっています。

デューラーの作品の中でも特に重要な位置を占める『キリストの哀悼』は、現在も多くの人々を魅了し続けています。

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