キリル・トゥマノフ

キリル・トゥマノフ：コーカサス史研究の先駆者

キリル・リヴォヴィチ・トゥマノフ（Cyril Leo Toumanoff、1913年10月13日 - 1997年2月4日）は、ロシア帝国出身のアメリカ合衆国の歴史学者、系譜学者です。彼は、南コーカサス史、特に中世のジョージア、アルメニア、イラン、そしてビザンツ帝国の歴史と系図研究を専門とし、西洋世界におけるコーカサス史研究の第一人者として知られています。トゥマノフの研究は、その後のコーカサス研究に大きな影響を与えました。

生い立ちと家系

1913年、キリル・トゥマノフはロシア帝国のサンクトペテルブルクで、軍人リヴァ・トゥマノフの息子として生まれました。父方の家系は、アルメニア系ジョージアの貴族であるトゥマニシヴィリ家に遡ります。その祖先は、かつてキリキア・アルメニア王国に住み、15世紀にコーカサス地方へ帰還しました。トゥマノフ家は、1783年のゲオルギエフスク条約に付随するジョージア貴族の一覧に名を連ねています。1850年には、ロシア帝国の公爵家として正式に登録されました。母エリザヴェータ・ジダーノワもロシア貴族の家柄で、西ヨーロッパの貴族とも血縁関係がありました。

波乱の青年期と学問への道

1917年のロシア革命により、トゥマノフ一家はペトログラードからアストラハンへ逃れました。しかし、内戦の混乱の中で母エリザヴェータはボリシェヴィキによって殺害され、父レフは白軍に参加。白軍敗北後、トゥマノフは父と共にフランスのパリへ移住し、その後1928年にアメリカへ渡りました。

アメリカで教育を受けたトゥマノフは、ハーバード大学に進学し、ジョン・コディントンやロバート・ピアポント・ブレイクといった著名な東洋学者の指導を受けました。彼らの支援により、ブリュッセルやベルリンでアルメニア学やジョージア学を研究。この時期にローマ・カトリックに改宗したことが、正教徒であった父親との間に一時的な確執を生みました。

研究者としてのキャリア

1942年、トゥマノフはジョージタウン大学に着任。1943年に博士号を取得し、西洋史におけるジョージアとアルメニアの貴族の系譜研究に力を注ぎました。1970年に名誉教授として退職した後は、ローマに移り歴史コンサルタントとして活動しました。彼は貴族と王朝に関する研究の第一人者として認められ、マルタ騎士団の団員やボヘミアのグランド・プライアとしても活動しました。

1997年、キリル・トゥマノフはローマで83歳で亡くなり、ヴェラーノ墓地のマルタ騎士団礼拝堂に埋葬されました。

主な業績

キリル・トゥマノフは、中世コーカサス史、特にジョージア、アルメニアの歴史と系譜に関する膨大な研究を残しました。彼の著作は、コーカサス地域の歴史研究における基礎となっています。主な業績として以下が挙げられます。

Studies in Christian Caucasian History (1963)
Manuel de généalogie et de chronologie pour l’histoire de la Caucasie chrétienne (1976)
* Les dynasties de la Caucasie chrétienne de l’Antiquité jusqu’au XIXe siècle (1990)

これらの著作は、コーカサス地域の歴史、系譜、文化に関する貴重な情報を提供しており、現代の歴史研究においても重要な参考文献として活用されています。

キリル・トゥマノフは、激動の時代を生き抜きながらも、その卓越した学識と情熱によってコーカサス史研究に多大な貢献を果たしました。彼の研究は、今後も長く歴史学の分野で参照され続けるでしょう。

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