キング・レコード (米国)

キング・レコード

アメリカ合衆国に存在した独立系のレコードレーベルであるキング・レコードは、20世紀半ばのアメリカン・ポピュラー音楽、特にブラック・ミュージックの分野において、極めて重要な役割を担った存在です。リズム・アンド・ブルース（R&B）をはじめ、ブルース、初期のロックンロール、そしてゴスペルといった様々なジャンルの録音作品を多数世に送り出し、アメリカのポピュラー音楽の発展に顕著な貢献を果たしました。

設立と初期の軌跡

キング・レコードは、シド・ネイサン（1903年4月27日 - 1968年3月5日）によって1943年にオハイオ州シンシナティで創業されました。設立当初はカントリー＆ウェスタン音楽を中心としたリリースを行っていましたが、創設者ネイサンは、当時メジャーなレコード会社が黒人音楽市場を十分に開拓しておらず、そこには大きなビジネスチャンスがあると見抜きました。これを受け、彼は積極的な方針転換を図ります。1945年8月には、リズム・アンド・ブルースに特化した傘下レーベル「クイーン」を立ち上げ、積極的にこの分野へと事業を拡大していくことになります。

事業の拡大と黄金期

R&B分野への参入は成功を収め、事業は順調に拡大しました。1950年には新たな傘下レーベル「フェデラル・レコード」を設立。さらに翌1951年2月には、1944年創設の「デラックス・レコード」を買収して傘下に収めました。この積極的な展開は続き、1953年にはマイアミを拠点とするゴスペル専門レーベル「グローリー・レコード」を、1960年にはニューヨークの著名なジャズ・レーベル「ベスレヘム・レコード」を買収するなど、多ジャンルかつ広範囲にその影響力を広げました。

これらのレーベルからは、アメリカ音楽史に名を刻む多くの伝説的なアーティストたちが輩出されました。例えば、

ジェームス・ブラウン
フレディ・キング
ハンク・バラード・アンド・ザ・ミッドナイターズ
アルバート・キング
ジョン・リー・フッカー
リトル・ウィリー・ジョン

といった面々がキング・レコードおよびその傘下レーベルで活躍し、後世に大きな影響を与える名盤を数多く生み出しました。彼らの革新的なサウンドは、R&B、ブルース、そしてロックンロールといったジャンルの確立と発展に不可欠な要素となりました。

創設者の死去と複雑な変遷

創設者であり、レーベルの推進力であったシド・ネイサンが1968年に死去すると、キング・レコードの歴史は新たな、そして複雑な局面を迎えることになります。同年10月には、テネシー州ナッシュヴィルのカントリー音楽レーベル「スターデイ・レコード」に売却され、「キング-スターデイ・レコード」として再出発しました。しかしその直後、同社はナッシュヴィルの放送事業者であるリン・ブロードキャスティングの傘下に入りました。リン社はレーベルの既存事業に大きな変更を加えることなく、その運営を継続しました。

しかし、所有権の移動はさらに続きます。1971年7月、リン社はレーベルが保有する音源のうち、特に商業的な価値が高かったジェームス・ブラウン関連のマスターテープをポリドール・レコードに売却しました。さらに同年、リン社はキング-スターデイ全体を「テネシー・レコーディング・アンド・パブリッシング」へと売却します。この買収会社は、後に著名なソングライター・コンビとして知られるジェリー・リーバーとマイク・ストーラーが、かつてキング・レコードの副社長を務めたハル・ニーリーらと共に設立した企業でした。

その後の展開と現在の音源所有

テネシー・レコーディング・アンド・パブリッシングによる買収後、1971年から1974年にかけてのキング-スターデイには、新たなリリースや目立った活動は見られず、事実上その商業的な展開は停止状態となりました。そして1975年、テネシー・レコーディング・アンド・パブリッシングは、キング-スターデイが所有していた音源の権利を、ガスト・レコードを運営するナッシュヴィルのGML社に売却することを決定しました。

以降、キング・レコードの膨大な録音資産はGML社の管理下に置かれています。現在もGML社は、自社のガスト・レーベルを通じて過去のキング音源の復刻リリースを手がけるほか、他のレコード会社へのライセンス供与なども行い、その貴重な音楽遺産を今日に伝えています。短い期間ながらも、キング・レコードがアメリカのポピュラー音楽、特にR&B、ブルース、ゴスペルといったジャンルの形成期に果たした役割は計り知れず、そのカタログは今なお世界中の音楽ファンに聴き継がれています。

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