ギアオイル

ギアオイル：歯車の潤滑を担うオイル

ギアオイルは、機械や乗り物などの歯車機構を潤滑するためのオイルの総称です。用途や歯車の種類によって、ミッションオイル（マニュアルトランスミッション用）、デフオイル（デファレンシャル用）など、様々な種類があります。それぞれの用途に最適な特性を持つギアオイルが使用されます。

ギアオイルの構成と機能

ギアオイルは、基油と様々な添加剤から構成されています。基油には、従来から使用されている鉱物油に加え、近年では化学合成油も用いられています。添加剤には、酸化防止剤、流動点降下剤、極圧剤、摩擦調整剤、防錆剤、消泡剤などがあり、それらの配合によってオイルの特性が決定されます。

かつては鉛系添加剤や鯨油なども使用されていましたが、環境保護や商業捕鯨の禁止などを背景に、現在は化学合成された成分に置き換えられています。

特にハイポイドギアのように、歯車の接触面圧が非常に高い場合は、通常のギアオイルでは油膜切れを起こし、焼き付きが発生する可能性があります。そのため、ハイポイドギアオイルには、極圧添加剤が配合されています。極圧添加剤は、高温高圧下で歯車表面と化学反応を起こし、保護被膜を形成することで、摩耗や焼き付きを防ぎます。硫黄や塩素、リンなどの化合物が使用されることが多く、独特の臭気を発するため、取り扱いには注意が必要です。

ギアオイルの選定：SAE規格とGL規格

ギアオイルの選定には、粘度と性能レベルを示す規格が重要です。粘度はSAE規格で、エンジンオイルと同様に数値で表示されますが、実際の粘度範囲は異なります。また、API（米国石油協会）が定めるGL規格は、添加剤の量と極圧性能によって6等級に分類されており、数字が大きいほど極圧性能が高くなります。しかし、上位規格が下位規格を必ずしも包含するわけではないため、機器メーカーの指定を遵守することが重要です。

特にLSD（リミテッド・スリップ・デファレンシャル）付き車両では、LSD対応のギアオイルを使用する必要があります。LSDの種類によって必要な摩擦調整剤が異なるためです。また、GL-5規格などに多く含まれる硫黄系極圧剤は、銅や真鍮などの黄色金属を腐食させるため、シンクロメッシュ式のトランスミッションにはGL-4規格が推奨されます。

オートバイにおけるギアオイル

多くのオートバイでは、エンジンオイルとギアオイルが兼用されています。しかし、湿式クラッチを持つ車種では、クラッチ機能を阻害しない特殊なエンジンオイルが使用されます。エンジンとギアボックスの潤滑系統が独立している車種や、ハイポイドギアを用いたシャフトドライブ車、サイドカー、トライクなどでは、専用のギアオイル、または自動車用のハイポイドギアオイルが使用されます。スクーターなど、クラッチ機構を持たないファイナルリダクションギアボックスでは、低摩擦特性のエンジンオイルを使用できる場合もあります。

API GL規格の詳細

GL規格は、ギアオイルの性能レベルを示すもので、用途や負荷条件によって適切な規格を選択する必要があります。以下に各規格の特徴をまとめます。

GL-1: 軽負荷条件向け。添加剤が少ない。
GL-2: 中程度の負荷条件向け。耐摩耗性添加剤を含む。
GL-3: 中程度の負荷条件向け。耐摩耗性添加剤を含むが、ハイポイドギアには不向き。
GL-4: 軽負荷から重負荷まで対応。シンクロメッシュ式トランスミッション向け。
GL-5: 過酷な負荷条件向け。ハイポイドギア向け。
GL-6: 極めて過酷な負荷条件向け。現在ではほとんど使用されない。

APIは、GL-1、GL-2、GL-3、GL-6規格については、現在では「非アクティブ」な規格として扱っています。また、MT-1規格は、主にノンシンクロメッシュ式トランスミッション向けに制定された規格で、GL規格とは異なる要件が設定されています。MIL-PRF-2105E（SAE J2360）は、MIL規格とMT-1規格の両方の要件を満たす厳しい規格です。

ギアオイルの選定は、機械や車両の仕様、使用状況などを考慮して適切に行う必要があります。メーカー指定の規格や粘度を遵守することで、歯車機構の寿命を延ばし、機械の性能を維持することができます。

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