ギヤ・カンチェリ

ギア・カンチェリ：独特の音楽言語と国際的な評価

ギア・カンチェリ（1935年8月10日-2019年10月2日）は、ジョージア（グルジア）出身の著名な作曲家です。その作品は、アルヴォ・ペルトやジョン・タヴナーといったミニマリズム音楽の巨匠たちと比較されることが多く、民族的・宗教的な要素と独特の音楽表現が見事に融合しています。

カンチェリの音楽世界：映画的手法と禁欲的な美学

カンチェリの交響曲における音楽言語は、特徴的なものです。長く、抑えられた、時に苦しげな弦の不協和音を背景に、遅いテンポの短調の旋律が断片的に現れます。そこに、勇ましい金管楽器や打楽器が時折挿入され、緊張感と劇的な効果を生み出しています。

興味深いのは、一部の批評家がカンチェリの音楽を語る際に映画用語を用いている点です。例えば、頻繁に見られる曖昧な転調は「ディゾルブ（溶暗）」、長いクレッシェンドは「ズーム」、静寂から突然の大音量への変化は「ストレートカット」などに例えられています。これらの表現は、カンチェリの音楽が持つ、静と動、明と暗の劇的な対比と、映像を思わせる鮮やかな描写を的確に捉えています。

ロシアの作曲家ロディオン・シチェドリンは、カンチェリを「マキシマリストの気質を備えた禁欲主義者。控えめのヴェスヴィオ」と評しました。この言葉は、カンチェリの音楽に内在する、抑制された情熱と爆発寸前のエネルギーの絶妙なバランスを見事に表現していると言えるでしょう。

多彩な作品群と国際的な活動

カンチェリは7つの交響曲を含む多くの作品を残しました。代表作として挙げられるのは、ヴィオラと管弦楽のための典礼作品『風は泣いている』です。カンチェリ自身はこの作品を、交響曲と同様に重要な位置づけとしています。

『交響曲第4番』は、1978年にアメリカで初演されましたが、直後に勃発したソ連文化に対するアメリカの文化的凍結により、カンチェリの西側諸国での活動は一時中断されました。しかし、ゴルバチョフによるグラスノスチ政策によって状況は好転し、カンチェリはヨーロッパやアメリカで数々の委嘱を受け、国際的な舞台で活躍するようになりました。ドイツの作曲家ヘルムート・ラッヘンマンがサンクトペテルブルクでカンチェリの作品を聴いたことが、西側諸国での紹介のきっかけとなりました。

カンチェリは、『交響曲第7番』に「エピローグ」という副題を付け、その後は「交響曲」という名称の作品は発表しませんでした。しかし、管弦楽曲の創作は続け、『Trauerfarbenes Land』という、事実上交響曲第8番と言える作品を発表しています。

デニス・ラッセル・デイヴィス、ギドン・クレーメル、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチなど、世界的に著名な音楽家たちがカンチェリの作品を積極的に演奏し、その才能を高く評価しました。ニューヨーク・フィルハーモニックでの世界初演など、輝かしい活動の数々は、カンチェリの国際的な地位を確固たるものにしました。

ジョージアでの活動と映画音楽

カンチェリの活動は、国際的な舞台だけにとどまりません。ジョージア（グルジア）では、舞台作品で広く知られています。20年間、トビリシのルスタヴェリ劇場の音楽監督を務め、オペラ『Music for the living』など多くの舞台作品を創作しました。このオペラは、演出家ロバート・ストゥルアとのコラボレーションによって制作され、ヨーロッパやソビエト連邦で高い評価を得ています。

また、12本の映画音楽も手掛けており、特にロシア語圏では高い知名度を誇ります。SF映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』の音楽も、彼の作品です。

晩年と没後

1991年以降は西ヨーロッパを拠点に活動し、ベルリン、そして1995年からはアントウェルペンに居住。ロイヤル・フランダース・フィルハーモニー管弦楽団のレジデンス作曲家を務めるなど、精力的に創作活動を続けました。

2019年10月2日、故郷のトビリシで心臓病のため84歳で亡くなりました。彼の音楽は、今もなお世界中で愛され、演奏され続けています。

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