ロディオン・シチェドリン

ロディオン・コンスタンティノヴィチ・シチェドリンは、1932年 12月16日にモスクワで生を受けたロシアの作曲家です。旧ソビエト連邦時代を通じてその指導的な作曲家の一人として活躍し、ソ連崩壊後も精力的な創作活動を続け、国際的な評価を確立しています。特にバレエやオペラといった舞台作品に多くの代表作があり、また自身も優れたピアニストおよびオルガニストとして、しばしば自作を初演するなど演奏活動も行いました。彼の妻は、20世紀バレエ界の伝説的人物であるマイヤ・プリセツカヤです。

音楽への道と学び

シチェドリンは、音楽的な才能に恵まれた家庭に育ちました。父コンスタンティン・シチェドリンは作曲家で音楽理論を教える人物であり、音楽が常に身近にある環境でした。幼少期にヴァイオリンに触れ、家族で三重奏を楽しむなど、自然に音楽の世界に親しんでいきました。1941年にモスクワ音楽院付属中央音楽学校に入学しますが、同年後半に第二次世界大戦の戦火を避けるため家族とともにサマラへ疎開したことで、一時学業を中断しました。終戦後、1944年から1950年までモスクワ合唱学校で研鑽を積み、その後サンクトペテルブルク音楽院に進学。ここでは、作曲を著名なユーリ・シャポーリンに、ピアノをヤコフ・フリエールに師事しました。さらに大学院研究科でシャポーリンの指導を受け、1959年に音楽院を卒業し、作曲家としての基礎を磐石なものとしました。

ソ連時代におけるキャリアと影響

音楽院卒業後、シチェドリンはソ連の音楽界において重要な存在となっていきます。1965年からは母校であるモスクワ音楽院で作曲を教え始めましたが、1969年には音楽院を去る決断をします。これは、1968年のチェコスロヴァキア侵攻に対する支持表明の書簡に署名を拒否したことが原因で、大学内の政治的な勢力との間に深刻な対立が生じたためでした。

しかし、政治的な圧力にもかかわらず、シチェドリンはソ連の音楽組織内で要職を歴任しました。1962年にはソビエト連邦作曲家同盟の理事会書記に就任し、1973年にはさらに影響力の大きいロシア・ソビエト連邦作曲家連合の理事長に選出され、1990年までその地位にありました。また、ソビエト連邦崩壊直前の1989年には、ソ連作曲家連合からソビエト連邦最高会議の人民代議員にも選ばれるなど、公的な活動においても重要な役割を担いました。

国際的な活動と近年

ソビエト連邦の崩壊後、シチェドリンは活動の場をさらに世界へと広げます。海外での演奏機会や国際的な共同制作が増加し、現在はドイツのミュンヘンとロシアのモスクワを行き来しながら活動を続けています。作曲家としての長年の功績は世界的に認められ、1989年にはベルリン芸術アカデミーの正会員に任命されました。

近年では、個人的な出来事として、2022年に妻マイヤ・プリセツカヤと長年共に暮らしたモスクワの自宅アパートを、バフルシン記念演劇博物館に寄贈しました。この場所は「マイヤ・プリセツカヤ居室博物館」として一般に公開されており、彼女の私物や資料が展示されるとともに、シチェドリンの書斎も保存されています。

作品の変遷と特徴

シチェドリンの作品は、そのキャリアの中で作風が変化しています。初期の作品は、調性が明快で、管弦楽法は色彩感に富み、ロシアの豊かな民族音楽の要素がしばしば断片的に織り交ぜられています。対照的に、後期の作品では、音列技法や偶然性の音楽といった現代的な手法を取り入れ、表現の幅を広げています。彼の作品がロシア国外、特に西側で広く知られるようになったのは、著名なチェリストであるムスティスラフ・ロストロポーヴィチのような世界的な演奏家たちが積極的に演奏し紹介したことによる影響が大きいと言えます。

作曲活動に加え、シチェドリンは卓越したピアノおよびオルガンのヴィルトゥオーゾでもありました。自身の作曲した6曲のピアノ協奏曲のうち半数を自ら初演しており、演奏家としての高い技術が彼の作曲にも反映されています。

彼の作品の中で最も知られているのは、やはり舞台音楽でしょう。バレエ音楽では、若き日の作品ながら成功を収めた《せむしの仔馬》（1955年）、ビゼーの原曲に革新的な編曲を施し世界的な話題となった《カルメン組曲》（1967年）、トルストイの小説に基づく《アンナ・カレーニナ》（1971年）、チェーホフ原作の《犬を連れた奥さん》（1985年）などがあります。オペラでは、ゴーゴリ原作の《死せる魂》（1976年）や、ナボコフの小説を基にした《ロリータ》（1993年）、近年ではレスコフ原作の《左利き》（2013年）などが挙げられます。

舞台作品以外にも、シチェドリンは幅広いジャンルで作曲を行っています。3曲の交響曲、前述のピアノ協奏曲6曲を含む多数の協奏曲、室内楽曲、そして重要なピアノ独奏曲があります。ピアノ曲では、ショスタコーヴィチの影響が見られる《24の前奏曲とフーガ》や、高度な対位法技巧が光る《ポリフォニーの手帳（25の前奏曲）》が特に重要視されています。管弦楽のための協奏曲シリーズもよく知られています。

受賞と栄誉

シチェドリンは、その長年の功績に対して多くの栄誉が与えられています。

1970年: ロシア連邦ソビエト社会主義共和国名誉芸術家
1972年: ソビエト連邦国家賞
1976年: ロシア・ソビエト社会主義共和国人民芸術家
1981年: ソ連人民芸術家
1984年: レーニン賞
1992年: ロシア国家賞

家族

彼の家族も芸術や学術の世界に貢献しています。父コンスタンティン・ミハイロヴィチ・シチェドリンは作曲家で、母コンコルディア・イワノヴナ・シチェドリナは経済学者でした。そして、最も有名な家族は妻マイヤ・ミハイロヴナ・プリセツカヤであり、彼女は20世紀を代表する偉大なバレエ・ダンサーとして、シチェドリンの作品世界にも大きな影響を与えました。

ロディオン・シチェドリンは、ロシアの音楽史における重要な位置を占める作曲家であり、その多様な作品とキャリアは、ソビエト時代から現代に至る激動の時代を反映しています。彼は今なお、作曲家、そして演奏家として、世界の音楽界に影響を与え続けています。

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