ギヨーム・ルクー

夭折したベルギー出身の作曲家ギヨーム・ルクーは、セザール・フランクに師事した最後の弟子の一人として、その才能を大いに期待されていました。しかし、わずか24歳という短い生涯を終え、多くの可能性を残したままこの世を去りました。

ジャン＝ジョゼフ＝ニコラ＝ギヨーム・ルクーは、1870年1月20日、ベルギーのヴェルヴィエ近郊にあるウズィ村に生を受けました。幼い頃から音楽に親しみ、6歳でピアノとヴァイオリンを始め、後にチェロも習得します。9歳になった1879年、家族とともにフランスのポワチエへ移住。1885年に進学したリセでは、物理教師からバッハ、ベートーヴェンの後期作品、そしてワーグナーの音楽を紹介され、これらの偉大な作曲家たちの世界に深く傾倒していきました。

1888年、さらなる音楽の探求のため、ルクーはパリへ移り住みます。翌1889年には、当時絶大な影響力を持っていたセザール・フランクに作曲を師事する機会を得ましたが、師フランクは1890年に世を去ります。その後は、フランクの薫陶を受けたヴァンサン・ダンディの指導を仰ぎ、作曲家としての道を歩み続けました。

1891年、ダンディの勧めもあり、ルクーはローマ賞コンクールに挑戦します。このコンクールで作曲したカンタータ『アンドロメダ』は審査員から高い評価を受け、第二等次席に値するとされましたが、ルクー自身は審査過程に疑問を感じ、受賞を辞退するという一幕もありました。しかし、この『アンドロメダ』の抜粋編曲版が、1892年2月18日にブリュッセルで演奏された際、著名なヴァイオリニストであるウジェーヌ・イザイの耳に留まります。その演奏に深く感銘を受けたイザイは、その場で指揮をしていたルクーに、ヴァイオリン・ソナタの作曲を依頼しました。ルクーはこの依頼に応え、ヴァイオリン・ソナタ ト長調を作曲し、イザイに献呈しました。この作品は、1893年3月7日にイザイ自身の演奏により初演され、大きな成功を収めます。イザイはさらに、ピアノ四重奏曲の作曲もルクーに委嘱するなど、その才能を高く評価しました。

将来を嘱望され、精力的に創作活動を行っていたルクーですが、その短い生涯は突然の終焉を迎えます。1894年1月21日、24歳の誕生日の翌日、彼はアンジェにある両親の家でチフス熱により亡くなりました。死因となったチフス菌については、1893年10月にパリで音楽仲間と食事をした際に、汚染されたシャーベットを口にしたのが原因とする説が有力視されています。彼の遺体は、生まれ故郷であるベルギーのウズィ村に埋葬されました。

ルクーは15歳頃から作曲活動を開始し、生涯で断片を含め100曲以上の作品を残しました。特に有名なのは、ウジェーヌ・イザイの依頼により作曲されたヴァイオリン・ソナタです。この他にも、完成された第1楽章と未完の第2楽章をダンディが補筆したピアノ四重奏曲、弦楽四重奏曲、ピアノ三重奏曲、チェロソナタといった多様な室内楽作品や、彼自身が詩を手がけたものを含む多くの歌曲作品などがあります。彼の作品は、その繊細さと激しさが同居する、感受性豊かで情熱的な筆致に特徴があります。

わずか24年という短い生涯でしたが、ギヨーム・ルクーは多くの優れた作品を残しました。もし彼が長く生きていたなら、どのような音楽を生み出したであろうかと思わせるほど、その才能は輝かしいものでした。彼の残した作品は、夭折した天才作曲家として、今なお多くの聴き手を魅了し続けています。

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