ギヨーム・ド・マショー

ギヨーム・ド・マショー

ギヨーム・ド・マショー（Guillaume de Machaut, 1300年頃 - 1377年4月13日）は、中世フランスの作曲家、詩人であり、アルス・ノーヴァを代表する人物として知られています。ランス近郊のマショー出身で、聖職者としての教育を受けました。

生涯

マショーの正確な出生年は不明ですが、1300年から1305年の間と推定されています。彼はシャンパーニュ地方の貴族の家柄に生まれ、聖職者になるための教育を受けました。その後、ボヘミア王兼ルクセンブルク伯ヨハンの秘書として仕え、ヨハンの軍隊と共にヨーロッパ各地を旅しました。彼は、イタリア、ハンガリー、ボヘミア、シレジア、プロイセン、ポーランド、リトアニアなどを訪れました。この間、ヨハンからヴェルダン、アラス、サン・カンタンなどの名誉職を与えられ、1334年または1337年にはランスのノートルダム大聖堂の参事会員にも任命されました。

1346年、百年戦争初期のクレシーの戦いでヨハンが戦死すると、マショーはフランス国王ジャン2世の妃であるヨハンの娘ボンヌに仕え、ランスに居を構えて生涯を過ごしました。その後、ノルマンディー公シャルル（後のフランス王シャルル5世）、ブルゴーニュ公フィリップ（豪胆公）、ナバラ王カルロス2世、サヴォイア伯アメデーオ6世、ベリー公ジャンなど、多くの貴族や王侯の庇護を受けました。

1349年のペスト（黒死病）の大流行後、マショーは自身の作品を集成し、『マショー写本』として残しました。1359年から1360年には、ペストの終息後に再開された百年戦争におけるランス包囲戦を経験しました。1377年4月、ランスで死去し、ノートルダム大聖堂に埋葬されました。

作品

マショーはアルス・ノーヴァの代表的な作曲家であり、複雑なリズムを用いた音楽を作曲しました。聖職者でありながら、彼の作品は宗教曲よりも世俗曲の比重が高く、宮廷風の愛や当時の社会情勢をテーマにしたものが多く見られます。

主要作品

ノートルダム・ミサ曲（Messe de Notre Dame）: マショーの最も有名な作品であり、ミサ通常文の全6楽章を単一の作曲家が作曲した最初の例として、音楽史的に重要な作品です。ノートルダムとは「我らの貴婦人」、つまり聖母マリアを指します。
モテット: 23曲のモテットのうち、6曲はラテン語の典礼文を使用し、残りは世俗的な歌詞を持っています。
ダヴィデのホケトゥス（Hoquetus David）: イソリズムの技法に基づいた作品で、複雑なリズムが特徴です。器楽曲として分類されますが、声楽での演奏も可能です。「ホケトゥス」とは「音楽のしゃっくり」を意味し、2人の歌い手が交互に音を歌う部分を指します。
世俗作品: レー、ヴィルレー、バラード、ロンドーなど、単旋律および多声音楽の歌曲（シャンソン）を多数作曲しました。有名なものに、逆行カノンの3声ロンドー『わが終わりはわが初め』があります。

詩人として

マショーは詩人としても知られており、老境に差し掛かった彼のもとに訪れた19歳の若い女性、ペロンヌ・ダルマンティエールとのプラトニックな恋愛を歌った『真実の物語』（Le Voir Dit）が有名です。

主要作品一覧

ノートルダム・ミサ曲（Messe de Notre Dame）
ダヴィデのホケトゥス（Hoquetus David）
モテット「婦人よあなたです、私に喜びの苦痛を与えているのは」（Dame, je sui cilz）
モテット「ああ、この苦しみ！どうして忘れられよう 」（Lasse! comment oublieray）
モテット「運命女神の約束に」（Qui es promesses）
ロンドー「わが終わりはわが始めなり」（Ma fin est mon commencement）
ロンドー「ばらよ、ゆりよ、春よ、緑よ」（Rose, liz, printemps, verdure）
バラード「あらゆる花のうち」（De toutes flours）
バラード「恋が私を焦がれさせ」（Amours me fait desirer）
ヴィルレー「甘き淑女よ」（Douce dame jolie）
* ヴィルレー「私は幸福な人生を送れるはずだ」（Je vivroie liement）

マショーの音楽は、中世音楽の粋を集めたものであり、今日でも多くの人々に愛されています。

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