ギリジャー・プラサード・コイララ

ギリジャー・プラサード・コイララ（1924年 7月24日 - 2010年 3月20日）は、ネパールを代表する政治家です。長年にわたりネパール会議派の指導者として活動し、ネパール王国時代に4度、そしてネパール連邦民主共和国の初代首相として1度、合計5度首相の座に就きました。ネパールの民主化運動において重要な役割を果たし、同国の現代史において極めて大きな影響力を持った人物として知られています。

生涯と初期の活動

コイララは1924年、当時インドのビハール州に亡命していたネパール人の父、クリシュナ・プラサード・コイララの子として生まれました。後に帰国し、政治活動を開始します。1948年にはネパール労働組合会議を設立し、労働運動の指導者としても頭角を現しました。1952年にはネパール会議派の地方組織で指導的立場に就くなど、着実に政治的基盤を築いていきました。

逮捕、亡命、そして帰国

1960年、当時のマヘンドラ国王によるクーデターが発生し、議会制民主主義が中断されると、コイララも逮捕されました。その後、1967年に釈放されるとインドへ亡命し、国外からネパール会議派の活動を続けました。亡命中の1975年にはネパール会議派の代表幹事に就任し、1991年までその職を務めます。1979年にネパールに帰国しました。

民主化運動の指導

1990年、ネパール国内で国民的な民主化運動（ジャナ・アンドラン）が巻き起こると、コイララはこの運動を指導する中心人物の一人となりました。この運動の結果、30年間にわたるパンチャーヤト制が廃止され、複数政党制が導入されるなど、ネパールは民主化への大きな一歩を踏み出しました。コイララの政治手腕は、この民主化プロセスの成功に大きく貢献しました。1996年にはネパール会議派の総裁に選出され、党の最高指導者となります。

首相としての実績

第1期 (1991年-1994年)

1990年の民主化運動を経て、1991年に行われた複数政党制下での総選挙で、コイララは当選を果たしました。所属するネパール会議派が下院で過半数の議席を獲得しましたが、党首が落選したため、コイララがビレンドラ国王によって首相に任命されました。この任期中、教育、メディア、保健分野の自由化に関連する法案を通過させ、プールバンチャル大学やB.P.コイララ保健・科学大学の設立を主導するなど、内政改革に取り組みました。しかし、党内対立などもあり、1994年 11月には議会での信任を得られず、解散総選挙に追い込まれました。

第2期 (1998年-1999年)

1998年、前政権の連立崩壊を受けて再び首相に就任しました。当初はネパール会議派による少数与党内閣でしたが、後に統一共産党やネパール友愛党との連立政権へと移行しました。

第3期 (2000年-2001年)

2000年、党内で前任首相への不信任を主導する形で、三度目の首相に就任しました。この時期、ネパールはネパール共産党毛沢東主義派による反乱（マオイスト反乱）による内戦の最中にありました。コイララ政権はこの内戦への対応に苦慮し、また自身への汚職疑惑も浮上するなど、困難な政局運営を強いられました。さらに、2001年に発生したネパール王族殺害事件後の対応についても批判を受けました。内戦への軍投入を決定した後、2001年 7月に首相を辞任しました。

第4期・第5期 (2006年-2008年)

2006年に再び大規模な民主化運動（ロクタントラ・アンドラン）が成功し、国王の直接統治が撤回されて下院が回復すると、コイララは7党連合の指導者として暫定政府の首相に選ばれました。この政権下で、国王の権限を大幅に縮小し、国軍に対するシビリアンコントロールを確立する法案が可決されました。暫定憲法の下では、首相であるコイララが暫定的な国家元首としての役割も担いました。2007年4月には、7党連合とマオイストを含む新政府のトップとして再び首相に再任されます。

2008年 4月10日の制憲議会選挙を経て、同年5月28日には制憲議会によってネパールの共和制移行が宣言されました。コイララは歴史的な共和制移行後も首相職を維持しましたが、選挙でネパール会議派が敗北し、制憲議会内で政局は混乱しました。ネパール会議派はコイララを初代大統領に推挙しましたが、健康上の問題などから反対も根強くありました。最終的に、2008年 8月15日、制憲議会での首班指名によりマオイストのプラチャンダが新首相に決定したことに伴い、コイララは正式に首相を辞任しました。

首相辞任後の活動

首相退任後も、コイララはネパールの政局に大きな影響力を持ち続けました。2009年5月にマオイスト中心の連立政権が崩壊すると、非マオイスト政権樹立のために積極的に動き、マーダブ・クマール・ネパールを首班とする連立政権の成立に貢献しました。自身の娘を外務大臣として入閣させるなど、この時期には「影の首相」とも称されました。

死去

2010年 3月20日、慢性閉塞性肺疾患のため、カトマンズにある娘の自宅で死去しました。翌日にはカトマンズのパシュパティナートで葬儀が執り行われました。

親族

コイララ家はネパールの政治家を多数輩出している家系です。

父: クリシュナ・プラサード・コイララ
母: ディヴィヤ・コイララ
兄: マートリカ・プラサード・コイララ（王政復古後初の首相）、ビシュエシュワル・プラサード・コイララ（ネパール初の議会で選出された首相）
娘: スジャータ・コイララ（政治家、外務大臣などを歴任）
* 姪: マニーシャ・コイララ（インド映画女優）

ギリジャー・プラサード・コイララは、ネパールの民主化と共和制移行という激動の時代を通じて、その中心的な役割を担い続けた歴史的人物です。

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