クイーン・エリザベス (客船)

クイーン・エリザベス（RMS Queen Elizabeth）

クイーン・エリザベスは、キュナード・ラインが運航していた豪華客船です。1940年の就航時には世界最大の客船であり、その優雅さと巨大さで多くの人々を魅了しました。56年間その記録を保持し続けたことは特筆に値します。

生い立ちと就航

1930年代、スコットランドのクライドバンクにあるジョン・ブラウン・アンド・カンパニー造船所で建造されました。船名は、当時のイギリス王妃エリザベス（ジョージ6世の妃）にちなんで名付けられました。1938年9月27日に進水した後、第二次世界大戦の勃発により徴用され、1940年3月3日に就航しました。就航時は世界最大の客船であり、その巨大さは当時の人々を驚かせました。

第二次世界大戦中の徴用

1939年9月に第二次世界大戦が始まると、「クイーン・エリザベス」と姉妹船「クイーン・メリー」はイギリス海軍に徴用されました。主にイギリス連邦諸国や植民地への兵員輸送に従事し、その高速性を活かして潜水艦の脅威を回避しながら安全に航海しました。大戦中、75万人以上の兵員を輸送し、総航海距離は90万キロメートルを超えました。

当初はオーストラリアからアジア、アフリカ間の航路で運航されましたが、1941年12月以降は太平洋戦争の勃発と日本軍の進撃により制海権を失ったため、アメリカとヨーロッパ間の北大西洋航路に限定されました。

戦後の北大西洋航路

1945年9月に終戦を迎えると、「クイーン・エリザベス」はジョン・ブラウン造船所で内外装の大規模な改修を受け、再び旅客船として北大西洋航路に投入されました。「クイーン・メリー」とともに、サウサンプトンからシェルブールを経由してニューヨークへ向かう航路を20年以上にわたって運航し、多くの旅行者を魅了しました。

航空機の台頭と衰退

しかし、1950年代に入ると、ダグラスDC-6やロッキードコンステレーションなどの大型旅客機が長距離路線に就航し始めました。1958年には、ボーイング707のようなジェット旅客機が登場し、ロンドンとニューヨーク間を6時間程度で結ぶとともに、運賃も低下しました。これにより、大西洋横断航路の定期船は乗客を奪われ、「クイーン・エリザベス」をはじめとする客船の経営は急速に悪化しました。

2隻の「クイーン」を維持するための燃料費や人件費は、キュナード社にとって大きな負担となり、1969年に両船とも退役させることになりました。その後、キュナード社はより小型で経済的な「クイーン・エリザベス2」（QE2）を後継として就航させました。

退役と最期

退役後、「クイーン・エリザベス」はアメリカの実業家に売却されましたが、資金難のため香港の海運王、董浩雲の会社に転売されました。香港の造船所で洋上大学への改造が行われていましたが、1972年1月9日に原因不明の火災が発生し、消火活動の影響で転覆してしまいました。当時、円谷エンタープライズが日本への寄航を計画し、ポスターも作成されていましたが、この火災事故により中止されました。

船体はその後、2年あまりビクトリア・ハーバーに放置された後、映画『007/黄金銃を持つ男』のロケに使用されました。1974年から1975年にかけて解体され、その壮大な生涯を終えました。

その後

2010年には、「クイーン・エリザベス2」の後継となる3代目「クイーン・エリザベス」が就航し、その名を現在に伝えています。

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