クット・アッテルベリ

クット・マグヌス・アッテルベリ（Kurt Magnus Atterberg, 1887年 - 1974年）は、20世紀のスウェーデンを代表する作曲家の一人です。彼は単に作曲活動に専念したわけではなく、生涯の大半をストックホルムの特許局職員として過ごす傍ら、優れたチェロ奏者、そして鋭敏な音楽評論家としても多岐にわたる才能を発揮しました。存命中はスウェーデン音楽界において揺るぎない重鎮と見なされ、スウェーデン作曲家協会や著作権協会の設立に尽力し、その会長職も務めるなど、音楽界の発展にも大きく貢献しました。

アッテルベリは1887年にイェーテボリで生まれ、技術者であった父の影響を受けつつ育ちました。幼少期から音楽に親しみ、10歳頃には友人に誘われてチェロを始め、その腕を磨きました。1907年にはストックホルムの王立工科大学に進学し、電気技術者としての専門知識を習得しますが、同時に音楽への情熱も失わず、1908年にはストックホルムのオーケストラに参加しています。

作曲家としての才能が開花するのは、1912年に自身の指揮で初演された交響曲第1番の成功からです。この作品によって、彼は同時代の作曲家ヒューゴ・アルヴェーンと並ぶスウェーデン音楽界のホープとして広く認知されるようになりました。翌1913年には交響曲第2番がドイツで初演され、その名声はスウェーデン国外にも及びます。この時期の作品は、ドイツ近代音楽の影響を受け、やや難解な響きを持つ傾向が見られました。同じ年、彼はストックホルムの特許庁に職を得、以後長きにわたり公務員として働くことになります。

私生活では、1915年にピアニストのエラ・ペッタションと結婚しますが、この結婚は1923年に終焉を迎えます。作曲家としては、1915年の交響曲第2番や1916年の交響曲第3番の時期が一つの絶頂期であり、これらの作品は初演後も繰り返し演奏され、人気を博しました。1918年の交響曲第4番以降は、故郷スウェーデンの民謡を積極的に作品に取り入れ始め、その代表例であるバレエ音楽『おろかな娘』は度々上演されました。また、同年にはスウェーデン作曲協会を、1923年にはスウェーデン著作権協会を設立し、両協会の会長を務めるなど、音楽家の権利擁護と発展にも力を注ぎました。

国際的な知名度を決定づけたのは、1928年にコロムビア・レコードが主催した「シューベルト没後100周年作曲コンクール」でした。彼は交響曲第6番でこのコンクールに応募し見事優勝、1万ドルの賞金を得ました。この成功により、彼の名は世界中に知れ渡ることになります。

しかし、1940年代に作曲された交響曲第7番、第8番の頃には、彼が頑なに守り続けた後期ロマン派的な音楽スタイルは、近代音楽が主流となる当時の音楽界ではやや時代遅れと見なされるようになり、音楽史的には「過去の人物」という評価がなされる傾向も現れました。1957年に発表された最後の交響曲である第9番は、それまでの作品とは一線を画す、いささか風変わりな作風で、発表当時は一般には理解が進みませんでした。

1968年に特許局を退職した後も、アッテルベリは音楽活動を続けましたが、1974年、86歳でストックホルムにてその波乱に満ちた生涯を終えました。

作品・作風

アッテルベリの作品は多岐にわたりますが、中でも9曲の交響曲、5曲のオペラ、そして劇音楽がその中核をなしています。彼は金銭的な目的で作曲を行うことは少なく、歌曲やピアノのための小品は比較的少ないとされています。その音楽様式は、概ね後期ロマン派音楽の手法に深く根ざしており、時にドイツの近代音楽の影響も見られますが、中期以降は積極的にスウェーデンの民謡を取り入れ、国民楽派的な色彩も帯びるようになりました。

主要作品

アッテルベリは5曲の歌劇を残しましたが、『竪琴弾きヘルヴァルド』、『小川の馬』、『ファナル（燃えている国）』、『アラジン』、『嵐』といったこれらの作品は、残念ながら現在ではほとんど上演される機会がありません。

劇音楽では、バレエ音楽『おろかな娘たち』(op.17)が特に知られています。

9曲の交響曲は、彼の創作の中心を占めます。

交響曲第1番ロ短調（op.3）：1910年に完成し、1912年に初演された初期の傑作。若々しい才気と高い完成度を持ち、ブラームスやリヒャルト・シュトラウスの影響が見られます。第2楽章には早くも彼独自のスウェーデン民謡風の旋律が現れます。
交響曲第2番ヘ長調（op.6）：3楽章構成。当初は2楽章でしたが、後に第3楽章が追加されました。アダージョとプレストが組み合わされた第2楽章や、壮大な終結部が特徴です。
交響曲第3番ニ長調『西海岸の光景』（op.10）：イェーテボリ近郊で作曲され、「太陽の霞」「嵐」「夏の夜」という副題を持つ3つの楽章からなります。特に「夏の夜」の終結部は日の出を描写しています。この作品は人気が高く、度々再演されました。
交響曲第4番ト短調『小交響曲』（op.14）：全楽章にスウェーデン民謡の旋律が用いられており、演奏時間も短い作品です。
交響曲第5番ニ短調『葬送交響曲』（op.20）：3楽章構成。第1楽章の不協和音的な響き、第2楽章の感動的な葬送行進曲、チャイコフスキーを思わせる終楽章の沈痛なコーダが印象的です。
交響曲第6番ハ長調『ドル交響曲』（op.31）：シューベルト没後100周年コンクール優勝作品。1万ドルの賞金にちなんでこの愛称で呼ばれます。作曲者自身は皮肉めいた言及もしていますが、ピアノ五重奏版への編曲など、愛着も見られます。終楽章は部分的に複調が使われ、祝祭的な雰囲気に満ちています。
交響曲第7番『ロマンティック交響曲』（op.45）：3楽章制。歌劇からの引用を含み、破棄された第4楽章の代わりに終楽章が設けられたため、やや軽い印象で閉じられます。
交響曲第8番（op.48）：交響曲第4番と同様、民謡素材を用いています。
* 交響曲第9番『幻想的交響曲』（op.54）：独唱と合唱を伴う大規模な単一楽章作品で、アイスランドの古エッダに基づいています。従来のスタイルとは異なり、カンタータに近い構成で、部分的に12音技法も取り入れられるなど、晩年の探求心を示しています。この曲は長らく録音の機会がありませんでした。

協奏曲としては、全3楽章のピアノ協奏曲変ロ短調（op.37）の他、初期作品であるピアノと管弦楽のための《狂詩曲》（op.1）があります。また、ヴァイオリン協奏曲、チェロ協奏曲、ホルン協奏曲、そしてヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲も残しています。ホルン協奏曲は、チェロ・ソナタからの改作ですが、独立した作品として成立しています。

弦楽合奏曲では、メーテルリンクの劇付随音楽を編曲したヴァイオリン・ヴィオラと弦楽のための組曲第3番（op.19-1）がよく知られています。特に第2曲「パントマイム」は、甘美な旋律を持つ感傷的な楽曲です。

室内楽曲としては、3曲の弦楽四重奏曲（第1番 op.2、第2番 op.11、第3番 op.39）があります。

彼はまた、ブラームスの弦楽六重奏曲第2番を弦楽合奏版に編曲するなど、編曲家としても活動しました。

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