古エッダ

古エッダ：北欧神話と英雄伝説の詩の世界

『古エッダ』は、17世紀にアイスランドで発見された、古ノルド語で書かれた北欧神話や英雄伝説を語る物語詩集です。写本の成立時期は9世紀から13世紀にかけてと推定されています。現在一般的に『古エッダ』と呼ばれているものは、1643年に発見された『王の写本』を基にしています。

『古エッダ』という呼称は、スノッリ・ストゥルルソンが著した『新エッダ』（散文エッダ）との対比から生まれたものです。スノッリは自著の中で、古くから伝わる詩の形式について言及しており、後に発見された同様の形式の詩を指す言葉としても『エッダ』が使われるようになりました。両者を区別するために、『古エッダ』（詩のエッダ、韻文のエッダ、歌謡エッダとも呼ばれる）という呼称が定着したのです。しかし、興味深いことに『王の写本』は『新エッダ』よりも後の1270年頃に編纂されたと考えられています。

王の写本：アイスランドの至宝

現存する最古の『古エッダ』写本である『王の写本』は、1643年、アイスランドのスカールホルトで司教ブリュニョールヴル・スヴェインスソンによって発見されました。1662年、彼はこの写本をデンマーク王に献上し、コペンハーゲンのデンマーク王立図書館に所蔵されたことから『王の写本』と名付けられました。その後、1971年にアイスランドへ返還され、国民的な喜びをもって迎えられました。この写本には、スノッリの『エッダ』にも引用されている詩や、北欧神話を語る多くの詩が含まれており、スノッリが『新エッダ』を著す際に参考にした可能性が高いと考えられています。

ブリュニョールヴルは当初、『王の写本』を12世紀の僧セームンドル・シグフースソン（セームンド、セームンドルとも呼ばれる）の作だと考えていました。そのため『セームンドのエッダ』とも呼ばれていましたが、現在ではセームンドルが『古エッダ』の作者であるという説は否定されています。

スウェーデンの学者グスタヴ・リンドブラドは、『王の写本』に収録されているエッダ詩が注意深く配列されている点や、各詩の導入部の散文が編者の詩への深い理解を示している点を指摘し、収録詩は1200年頃から集められ始めたのではないかと推測しています。

エッダ詩：古ノルド語の韻律とケニング

『古エッダ』に収録されている詩はエッダ詩と呼ばれ、古譚律（フォルニュルジスラグ）、歌謡律（リョーザハーットル）、まれに談話律（マーラハーットル）という韻律を用いています。古譚律では8行の詩が、歌謡律では6行の詩が、それぞれ頭韻を用いて構成されています。また、ケニング（複合比喩）も用いられますが、スカルド詩ほど多くはなく、複雑さも少ない傾向があります。エッダ詩のほとんどは作者不詳であり、古代北欧の詩のうちスカルド詩に分類されないものを総称してエッダ詩と呼ぶ場合もあります。

小エッダ：様々な写本からの追加

『王の写本』以外にも、『バルドルの夢』や『リーグルの歌』など、他の写本にのみ残されているエッダ詩が存在します。これらは編者によっては『古エッダ』の刊本に含まれることがあり、『小エッダ』（エッダ・ミノラ）と呼ばれています。同様に、サガの中に挿入されているエッダ風の詩も、『古エッダ』に含まれることがあります。しかし、これらを後世の模倣とみなす学者もいます。

古エッダの構成：神話詩と英雄詩

エッダ詩は主に神話詩と英雄詩に分類されます。『王の写本』収録の英雄詩はさらに、ヘルギに関するものとニヴルング（ニーベルンゲン伝説）に関するものに分けられることもあります。

神話詩には『巫女の予言』、『高き者の言葉』、『ヴァフスルーズニルの言葉』など、英雄詩には『フンディングル殺しのヘルギの歌』、『シグルズルの歌』など、多くの作品が含まれます。小エッダに分類される作品も存在し、それらは『王の写本』には収録されていません。

古エッダの研究と刊本

『古エッダ』は世界各地で研究されており、多くの言語に翻訳されています。日本語訳も複数存在し、それぞれに特徴があります。研究者や編者によって、どの詩を『古エッダ』に含めるか、どの詩を小エッダと分類するかは異なるため、複数の刊本が存在する点にも留意が必要です。古エッダは、北欧神話の理解に欠かせない重要な文献であり、現代においてもその魅力は衰えることがありません。

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