クヌギカレハ

クヌギカレハ

クヌギカレハ（学名：Kunugia undans）は、昆虫綱チョウ目カレハガ科に分類されるガの一種です。このガの和名は、成虫の翅がクヌギなどの樹木の枯れた葉に酷似していることに由来しています。カレハガ科に属する種は一般的に大型であり、本種もまた夜行性で、その大きな体と特徴的な外見を持ちます。

分布

クヌギカレハは、広範な地理的分布を示しており、主にアジアの温帯から熱帯にかけて生息しています。具体的な生息地としては、日本では北海道南部から九州、そして琉球諸島にかけて見られます。日本国外では、シベリア、朝鮮半島、中国、そしてインドといった地域にもその分布が確認されています。これらの地域における森林や、幼虫の食草となる樹木が自生する里山環境などに広く適応しています。

亜種

日本国内には、地理的な差異に基づいた複数の亜種が存在します。現在、主に以下の二つの亜種に分類されています。

ヤクシマイキタ亜種（Kunugia undans flaveola）：学名は Motschulsky により1866年に記載されました。屋久島よりも北、すなわち本州から九州にかけての地域に分布する亜種です。一般的にクヌギカレハとして認識されているのはこの亜種に含まれる個体が多いです。
リュウキュウ亜種（Kunugia undans iwasakii）：学名は Nagano により1917年に記載されました。沖縄県を中心とした琉球諸島に分布する亜種です。この亜種は、特に沖縄本島などでは地元の言葉でヤマンギ（山蛾）と呼ばれ、古くからその存在が知られています。ヤマンギと呼ばれる背景には、幼虫や繭が持つ毒針毛の毒性が他の地域の亜種に比べて強いとされており、触れると皮膚炎などの健康被害を引き起こす可能性があることから、地元住民の間では注意が必要な昆虫として認識されています。

形態

成虫の形態は、その和名が示す通り、枯葉そっくりです。翅の色は黄土色を基調とし、カレハガ特有の複雑な模様や筋が見られますが、これらが落ち葉の葉脈やまだらを模倣しているため、樹の幹などに静止していると周囲に溶け込み、見分けがつきにくくなります。翅を広げたときの幅、すなわち開張は、オスが約35ミリメートルであるのに対し、メスは約43ミリメートルと、メスの方が一回り大きくなります。

幼虫は、成長段階や個体によって体色に変異が見られ、黄土色っぽいものや灰褐色っぽいものなど、様々です。幼虫の最も特徴的な点は、頭部近くの胸部背面に存在する、毒針毛が密集した2束の突起です。この毒針毛の束は、幼虫が外部からの刺激や危険を感じると、防御のために大きく膨らませる性質があります。この毒針毛に触れると、人によっては激しいかゆみや発疹、皮膚炎といったアレルギー反応を引き起こすことがあります。幼虫の毒針毛は、脱皮の際に脱皮殻にも付着し、さらに蛹になる際に自らの体から紡ぎ出す繭にも織り込まれます。そのため、幼虫本体だけでなく、脱皮殻や繭にも触れないよう注意が必要です。ただし、成虫にはこの毒針毛は存在せず、無毒です。

食草

クヌギカレハの幼虫は植食性であり、特定の樹木の葉を食べて成長します。非常に多様な広葉樹を食草とすることが知られており、主な食草としては、ブナ科のクヌギ（Quercus acutissima）やナラ類（Quercus spp.）が挙げられます。これらの樹木は本種の生息環境に広く見られます。また、バラ科のサクラ（Prunus spp.）やウメ（Prunus mume）、ヤナギ科のヤナギ類（Salix spp.）、そしてホルトノキ科のホルトノキ（Elaeocarpus sylvestris）なども食草として利用することが確認されています。幼虫はこれらの樹木の葉を活発に摂食し、成長を続けます。

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