クライスラー・ニューヨーカー

クライスラー・ニューヨーカー：58年の歴史を刻んだアメリカンラグジュアリー

クライスラー・ニューヨーカーは、1939年から1996年まで製造されたクライスラー社の高級乗用車です。アメリカ車の車名としては非常に長い期間にわたって使用され続け、その間、11世代ものモデルチェンジを経て進化を遂げました。本稿では、ニューヨーカーの歴史を初代から最終モデルまで詳細にたどり、その魅力と変遷を明らかにします。

初代から5代目：戦後アメリカを代表する高級車

初代ニューヨーカーは1939年、クライスラー・インペリアルのオプションとして登場しました。その人気を受け、翌年から独立したモデルとして生産が開始されました。戦後、2代目では「Prestomatic」2速自動変速機や180馬力の「FirePower Hemi」V8エンジンが搭載され、当時としては驚異的な加速性能を実現しました。1952年にはパワーステアリングも装備されました。

3代目では、1956年には250馬力、1959年には350馬力へとエンジン出力が向上しました。ヴァージル・エクスナーによる「Forward Look」デザイン、特徴的なテールフィンが採用されたことで、大型で豪華、ハイパワーなアメリカ車を象徴するモデルとなりました。1957年には3速オートマチック、トーションバー式サスペンションが採用され、1960年には車体構造がモノコック構造へと進化しました。

4代目では、テールフィンが廃止され、セダン、ワゴン、2ドアハードトップのみの車種構成となりました。スポーティーなイメージから、ビュイックの上級モデルをライバルとする中上級車へとその性格付けが変化していったのです。1963年には業界最長の5年または5万マイルの長期保証が導入され、販売台数の増加に貢献しました。

5代目では、エルウッド・エンゲルによるデザインで全面的に刷新されました。ホイールベースが短縮され、350馬力の「440 Firepower」エンジンがオプション設定され、チルト＆テレスコーピックステアリングが新採用されるなど、更なる進化を遂げました。

6代目から8代目：石油危機とダウンサイジング

6代目は1973年の第一次石油危機前に開発された最後のフルサイズカーでした。1976年にはクライスラー・インペリアルのデザインを受け継ぎ、リンカーン・コンチネンタルやキャデラックに匹敵するクライスラーの最上級車種となりました。しかし、石油危機を機にライバル各社がダウンサイジングを進める中、クライスラーは対応が遅れ経営危機に直面することになります。

7代目では、ダウンサイジングされた新型車が登場し、「クライスラー・ニューヨーカー・フィフスアベニュー」というサブネームが追加されました。V8エンジンは5200～5900ccとなり、安全規制強化に伴い、車体は4ドアハードトップからピラー付きに変更されました。

8代目では、クライスラー・ルバロンのMボディを採用し、ホイールベースが大幅に短縮されました。直列6気筒エンジンが標準となり、V8エンジンはオプションとなりました。「ニューヨーカー」と「フィフス・アベニュー」の2種類が設定され、翌年には「フィフス・アベニュー」のみとなり、後に「クライスラー・フィフスアベニュー」として独立したモデルとなりました。

9代目から11代目：小型化と新たな方向性

9代目では、前輪駆動の小型車用Eボディを採用した新型ニューヨーカーが登場しました。日本の小型車に迫るサイズへと小型化され、エンジンも4気筒エンジンへと変更されましたが、高級車の様式は維持され、デジタル式計器類や各種快適装備が採用されました。また、リムジンのベース車としても使用されました。

10代目では新しいCボディが採用され、車体が大型化されました。三菱製のV6エンジンが搭載され、アンチロックブレーキもオプション設定されました。1990年からは「ニューヨーカー・サロン」へと名称が変更されました。

最終モデルとなる11代目は、LHボディを採用し、若々しくスポーティなデザインとなりました。クライスラー・LHSの下級グレードとなり、コラムシフトやベンチシートなどを採用していました。1997年以降LHSにベンチシートがオプションとして追加されたことで、ニューヨーカーは1996年モデルをもって生産を終了しました。

日本におけるニューヨーカー

11代目モデルを除き、各世代のニューヨーカーは日本にも輸入され、人気を博しました。特に、ロッキード事件で知られる田中角栄氏が7代目ニューヨーカーに乗っていたことが知られています。

クライスラー・ニューヨーカーは、時代の変化に合わせて進化を遂げながらも、常にアメリカンラグジュアリーの象徴として存在し続けました。その58年にわたる歴史は、アメリカ自動車史、ひいては世界自動車史において重要な一ページを刻んでいます。

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