クラリネット協奏曲第1番 (ウェーバー)

カール・マリア・フォン・ウェーバーが1811年に作曲した《クラリネット協奏曲第1番 ヘ短調 作品73（J.114）》は、彼のクラリネット作品の中でも特に重要な位置を占める傑作です。

この作品は、当時ミュンヘンの宮廷管弦楽団で活躍していた名クラリネット奏者、ハインリヒ・ヨーゼフ・ベールマンのために作曲されました。ウェーバーはベールマンの卓越した技量に感銘を受け、彼のために一連のクラリネット作品を生み出しましたが、本作はその中でも最も広く知られ、演奏される機会の多い楽曲となっています。

作曲のきっかけは、1811年4月5日に同じくミュンヘンで初演されたウェーバーのクラリネット小協奏曲（作品26）の成功でした。ベールマンの独奏と宮廷管弦楽団によるその演奏に深く感銘を受けたバイエルン国王マクシミリアン1世は、ウェーバーに新たなクラリネット協奏曲を2曲依頼したのです。この依頼を受け、ウェーバーはすぐさま作曲に取りかかり、同年4月から5月にかけてまずこのヘ短調の第1番を完成させました。

作品の初演は、作曲から間もない1811年6月13日、再びミュンヘンで行われました。独奏はベールマン、そしてウェーバー自身がタクトを執りました。なお、国王から依頼されたもう一曲の協奏曲である第2番（作品74）は、この第1番の初演の後、同年7月に完成しています。ウェーバーはベールマンに一定期間の独占的な演奏権を与えたと推測されており、そのため楽譜の出版は遅れ、初演から11年を経た1822年になってようやく行われました。

編成

独奏クラリネット（B♭管）に、フルート2、オーボート2、ファゴット2、ホルン3、トランペット2、ティンパニ、そして弦五部（ヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）という編成で書かれています。

楽曲構成

この協奏曲は、以下の3つの楽章で構成されており、全曲の演奏時間は約25分です。

1. 第1楽章：アレグロ ヘ短調 4分の3拍子 自由なソナタ形式
劇的なオーケストラの序奏で幕を開けます。この序奏で提示される主題は、独奏クラリネットには直接現れませんが、主部の展開において重要な役割を果たします。独奏クラリネットが登場すると、まず憂いを帯びたヘ短調の第一主題が奏でられ、徐々に情熱的な高まりを見せます。続く変イ長調の第二主題は、下降音階を特徴とする旋律で、こちらもクラリネットによって提示されます。再現部では第二主題が省略され、序奏の動機を用いた印象的なコーダへと流れ込みます。
この楽章では、提示部の終盤、143小節目にベールマンによる16小節の加筆されたパッセージと短いカデンツァが存在し、今日でも多くの演奏家がこのベールマン版を用いています。ウェーバーのクラリネット作品には、ベールマンが演奏上の効果を高めるために加えたとされる大小の変更が多く残されています。1869年にベールマンの息子カール・ベールマンが提供した譜面に基づく新版が出版されて以降、長い間このベールマン版が「正統的な版」と見なされてきました。しかし、ウェーバー本来の意図を尊重し、オリジナル譜を復元しようとする試みは、1954年にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版された版を契機に進められています。

2. 第2楽章：アダージョ・マ・ノン・トロッポ ハ長調 4分の4拍子 三部形式
穏やかな弦楽の伴奏に乗って、独奏クラリネットが美しいカンタービレ（歌うような旋律）を奏でる、緩徐楽章です。中間部では表情が一変し、劇的な緊張感が高まります。ここでは、独奏クラリネットの細やかな16分音符の動きと、力強いオーケストラの響きが対比されます。その後、《魔弾の射手》を彷彿とさせるようなホルンの三重奏とクラリネットが絡み合う楽節を経て、冒頭の穏やかな旋律が回帰し、静かに閉じられます。

3. 第3楽章：ロンド、アレグレット ヘ長調 4分の2拍子
独奏クラリネットによる、特徴的なリズムを持つ生き生きとしたロンド主題で開始されます。この主題が繰り返し現れる間に、多様で魅力的な副主題や楽想が次々と提示され、色彩豊かな音楽が展開されます。特にこの楽章は、独奏クラリネットの高度な技巧が存分に発揮されるフィナーレであり、華やかなパッセージや跳躍、速いタンギングなどが効果的に用いられ、作品を力強く締めくくります。

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