クランクケースブリーザー

クランクケースブリーザーとオイルキャッチタンク：エンジンの呼吸と保護

4ストロークエンジンでは、ピストンの動作や温度変化によってクランクケース内に圧力が発生します。この圧力を適切に制御し、エンジンオイルの劣化や環境への影響を抑制するために考案されたのが、クランクケースブリーザーです。この記事では、クランクケースブリーザーの仕組み、種類、歴史、そしてブローバイガスに含まれるオイルを回収するオイルキャッチタンクについても詳しく解説します。

クランクケースブリーザー：圧力制御の仕組み

クランクケース内の圧力は、ピストンリングの隙間から漏れるブローバイガス、温度上昇による空気の膨張、オイルの蒸発によって上昇します。この圧力を外部に逃がすための通気口がクランクケースブリーザーです。

最も単純な方式は、大気に直接圧力を開放する大気開放型です。しかし、ブローバイガスには未燃焼の炭化水素など、大気汚染物質が含まれるため、多くの地域で法規制により禁止されています。

現在では、環境規制に対応するため、ブローバイガスを吸気管に再循環させる再循環型が主流です。この方式では、ブローバイガスが吸気と共に燃焼室に送られ、再燃焼することで排出ガスをクリーンにします。

より高度な方式として、クランクケースを積極的に換気するクランク室掃気型があります。この方式では、PCVバルブ（Positive Crankcase Ventilation valve）と呼ばれる逆止弁を用いて、クランクケース内の空気を積極的に吸気マニホールドに排出します。同時に、エアクリーナーボックスから新鮮な空気を導入することで、クランクケース内の換気を促進し、オイルの劣化を抑制します。一部のシステムには、オイルセパレーターが組み込まれ、ブローバイガスからオイルミストを分離してクランクケースに戻す機能も備わっています。さらに、クランクケース内圧を常に最適に保つクランクケース内圧コントロールバルブを導入する車両も登場しています。

オイルキャッチタンク：オイルの回収と保護

オイルキャッチタンクは、クランクケースブリーザーから排出されるブローバイガスに含まれるオイルミストを回収するための部品です。オイルミストは、エンジンの性能劣化や環境汚染につながるため、これを回収することで、エンジンを保護し、環境への負荷を軽減します。

オイルキャッチタンクは、単にオイルを溜めるだけでなく、オイルミストと水分を分離するオイルセパレーター機能を持つものもあります。分離されたオイルは、クランクケースに戻されるよう設計されています。軽自動車など、ブローバイガス発生量が比較的少ない車両には、オイルキャッチタンクが装備されないこともあります。

モータースポーツにおいては、コース上へのオイル飛散は重大な事故につながるため、オイルキャッチタンクの装着がレギュレーションで義務付けられているケースも多いです。また、クランクケース内圧コントロールバルブと併用することで、バルブへのオイル混入を防ぐ目的で設置されることもあります。

クランクケースブリーザーの歴史：技術革新と環境規制

初期の4ストロークエンジンでは、クランクケース内の圧力に耐えるため、オイルシールやオイルレベルゲージに工夫が凝らされていました。1928年に登場したオープンタイプのクランクケースブリーザーは、高回転化を可能にする画期的な技術でした。

第二次世界大戦中の戦車では、浸水を防ぐため、逆止弁が採用されましたが、これはPCVバルブのような積極的な換気システムではありませんでした。

1950年代後半、光化学スモッグの原因物質が未燃焼炭化水素であることが判明し、その発生源の一つとして、オープンタイプのクランクケースブリーザーが特定されました。これを受け、ゼネラルモーターズがPCVバルブを開発、普及させたことで、環境規制に対応する重要な技術となりました。

まとめ

クランクケースブリーザーとオイルキャッチタンクは、4ストロークエンジンの効率性と信頼性、そして環境保護に欠かせない重要な技術です。その進化の歴史は、技術革新と環境規制の両面を反映しており、これからも更なる発展が期待されます。 それぞれの方式の特性を理解し、適切なシステムを選択することで、エンジンの性能と寿命を最大限に引き出すことが可能です。

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