クラヴィコード

クラヴィコード：繊細な響きを持つ古楽器

クラヴィコードは、鍵盤楽器の一種で、弦をタンジェントと呼ばれる金属片で突き上げて発音させるという独特の構造を持っています。長方形の箱型の楽器で、通常はテーブルや専用の台に置いて演奏します。チェンバロなどと比べると音量は小さいですが、打鍵の強弱によって音に強弱をつけることができるのが特徴です。

歴史

クラヴィコードは14世紀頃に発明され、オルガンやチェンバロ、ピアノなどと並行して、16世紀から18世紀にかけて広く使用されました。特にドイツ語圏、スカンジナビア半島、イベリア半島で盛んに用いられました。中世のモノコードに鍵盤機構を付加したものが起源であるという説がありますが、確実な証拠はありません。初期のクラヴィコードは小型で、幅1.2メートル程度、音域は4オクターブ程度でしたが、後期には幅2.1メートル、音域6オクターブに達するものも現れました。

用途

クラヴィコードは、特に練習用の楽器として重宝されました。オルガン奏者の練習用には、手鍵盤に加えて足鍵盤を備えたクラヴィコードも製作されました。1400年頃から1800年頃にかけて、チェンバロ、ピアノ、オルガンのために書かれた音楽の多くはクラヴィコードでも演奏可能であり、実際に演奏されていました。家庭用の楽器として多くの音楽家に愛用され、C.P.E.バッハも熱心な支持者でした。ハイドンのソナタの一部も、当時のドイツやオーストリアで製作された大型のクラヴィコードで演奏されたと考えられています。

構造

クラヴィコードは、左側に鍵盤、右側に響板が配置されており、響板の下の空洞が共鳴箱となります。弦は真鍮または鉄でできており、通常は複弦です。弦は、左側のヒッチピンと右側のチューニングペグの間に張られています。弦のチューニングペグ側は響板上のブリッジに接触しており、ヒッチピン側は消音用のフェルトで押さえられています。鍵盤の一端にはタンジェントと呼ばれる楔形の金具が取り付けられており、鍵盤を押すとタンジェントが弦を上向きに突き上げます。この時、タンジェントによって分割された弦のヒッチピン側はフェルトによって振動が止められ、タンジェントからブリッジまでの間の弦が振動します。音量は打鍵の強さで調整でき、打鍵後も鍵を押し続けることでピッチを変化させ、ビブラート（ベーブング）をかけることも可能です。鍵を離すとタンジェントが弦から離れ、弦全体がフェルトで消音されます。

クラヴィコードの構造上の特徴として、タンジェントの接触位置によって弦の振動長が決まるため、複数の鍵盤を同一の弦に割り当てることができます。これにより弦の数を減らすことができますが、同じ弦に割り当てられた音を同時に発音することはできません。一般的には、同時に使用されることが少ない音（例えば、ハと嬰ハ）が同一の弦に割り当てられます。このような楽器は「フレッテッド・クラヴィコード」と呼ばれます。18世紀には、各鍵盤に独立した弦を割り当てた「アンフレッテッド・クラヴィコード」も作られるようになりました。

現代におけるクラヴィコード

19世紀には次第に用いられなくなったクラヴィコードですが、19世紀末にアーノルド・ドルメッチによって復興されました。今日では世界各国にクラヴィコード協会が設立され、復元製作も盛んに行われています。音量が小さいため、現代の大きなホールでの演奏は難しいですが、各地で演奏会も開催されており、過去70年間で400を超える録音が残されています。

その他

ビートルズの「フォー・ノー・ワン」（アルバム『リボルバー』収録）や、井上陽水の「氷の世界」で使用されています。

ロックやファンクで使用されるクラビネットは、電気クラヴィコードの一種であり、磁気ピックアップを用いて信号をアンプに送る構造を持っています。

関連項目

ピアノ
チェンバロ
* クラビネット

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