ビブラート

ビブラート：音楽の表現を豊かにする音の揺らぎ

ビブラートとは、音楽演奏や歌唱において、音を伸ばす際に音の高さを周期的に揺らす奏法です。音程自体は変化せず、音の高さが微妙に変化することで、豊かで情感豊かな表現を生み出します。似た言葉にバイブレーションがありますが、音楽においてはビブラートに含まれないタイプの音の揺れや、感情の揺れなどを指すことが多いです。

ビブラートの種類と歴史

ビブラートは、音量の揺れと音高の揺れの2種類に大別されます。楽器の種類や演奏スタイル、音楽ジャンルによって使い分けられ、その表現効果は大きく異なります。

西洋[[音楽]]におけるビブラートの歴史は古く、ルネサンス期やバロック期には既に存在し、ベーブング、トレモラント、フラットマンなど、様々な名称で呼ばれていました。1756年のレオポルト・モーツァルトの『ヴァイオリン教本』には、「最近の演奏家は全ての音にビブラートをかけるが、神の欲するところだけに使うべき」という記述があり、当時からビブラートの使い方が議論されていたことがわかります。多くの文献に「音を震わせる」という記述が残されていることから、ビブラートは装飾的な奏法として認識されていたと考えられます。独奏では自然発生的なビブラートも用いられていましたが、現在のように常にビブラートをかけるようになったのは19世紀以降のことです。ビブラートの多用に対して、バルトークは楽譜に「ノン・ビブラート」の指示を記すなど、その使用法は時代によって変化してきました。

各楽器におけるビブラート奏法

弦楽器

弦楽器では、弦を押さえる位置を揺らすことでビブラートをかけるのが一般的です。バイオリンやビオラでは、指板を押さえている指の位置を揺らし、手首を動かさずに肘から指全体を動かす、肘は動かさずに手首を動かす、指の第一関節をわずかに動かす、といった様々な方法があります。チェロやコントラバスでは、指先と肘を支点にして手首を上下に動かす方法が用いられます。弦楽器は、楽器が大きいほど大きな動きが必要となります。フレットのあるギターやベースでは、チョーキングやアーミングによってビブラートをかけることが多く、音程を上げる方向でかけることが多いです。

管楽器

管楽器の多くは機構上、音程を揺らしにくいことから、音量型のビブラートが多くなります。音程型のビブラートを出すには、腹筋や横隔膜を使って呼気圧を揺らすか、アンブシュア（吹奏楽器の口の形）を変える方法が一般的です。木[[管楽器]]では、腹筋を振動させて音量型のビブラートをかけます。クラリネットは、特殊な場合を除き、基本的にはノンビブラートです。サクソフォーンは、息が通りやすくアンブシュアでのピッチの変化幅が大きいため、顎の動きで音程型のビブラートをかけることができます。金管楽器では、顎や腹筋を使う方法のほか、楽器自体を動かすことでビブラートを得ることもできます。トロンボーンでは、スライドを往復させることでビブラートをかけるのが一般的です。ビブラートの有無や奏法は、奏者の好みや演奏形態（オーケストラ、ジャズ、独奏など）によって大きく異なります。ビブラートをかけながら、ビブラートの幅を徐々に大きくしていくと、シェイクと呼ばれる奏法に移行します。

打楽器

打楽器でビブラートをかけることは少ないですが、ヴィブラフォンでは共鳴管内の羽を回転させることで音量型のビブラートを得ます。グロッケンでは、鍵盤の上を手で揺らすことでビブラート効果を出す奏法もあります。トライアングルは、楽器自体を揺らすことでビブラート効果を得ます。

声楽

声楽においては、理想的な発声状態では無意識のうちに自然なビブラートがかかるとする説があり、多くの演奏家がこれを支持しています。発声機構的には、声帯の開閉部の位置が呼気の進行方向に揺れることで生じると考えられ、5～7Hz程度の動きと言われています。声楽の理想的なビブラートは、毎秒6回前後と言われますが、音域、音量、声種、音楽ジャンル、曲のテンポ、演奏場所の残響時間などによって変化します。細かく震えるようなビブラートは「ちりめんビブラート」と呼ばれ、古典音楽ではあまり好まれませんが、ポピュラー音楽ではテンポの速い曲でよく用いられます。クラシック、演歌、フォークなど、音楽ジャンルによってビブラートの様式も異なります。

音楽ジャンルとビブラート

クラシック[[音楽]]では、ビブラートは自然に生まれるものであり、目的とした練習は通常行いません。熟練するにつれて自然と入るようになります。演歌では、こぶしとビブラートは不可欠とされ、徹底的な練習が行われます。ムード歌謡やシャンソン、ミュージカルでもビブラートは重要な要素です。アイドル歌謡では、デビュー当初からビブラートをかける歌手と、キャリアを重ねて習得する歌手がいます。ロックやポップスでは、歌唱技術の差が大きく、ビブラートの使い方も様々です。民族音楽では、ビブラートの扱いは様々で、日本民謡ではこぶしを重視し、ビブラートはあまり重視されません。童謡は通常ビブラートをかけませんが、歌手によってはクラシック型のビブラートをかける場合があります。

ビブラートとトレモロ、ノンビブラート

ビブラートとトレモロは、どちらも音の揺らぎですが、トレモロは断続的に同じ音を繰り返すのに対し、ビブラートは連続的に音の高さを揺らす点が異なります。歌唱においては、質の悪い揺れをトレモロと呼ぶ場合もあります。ノンビブラートは、ビブラートを徹底的に排除した奏法で、繊細な雰囲気や荘厳さ、素朴さを演出する際に用いられます。

ビブラートは、音楽表現に深みと豊かさを与える重要な奏法です。その歴史、種類、様々な楽器や歌唱における奏法、そして音楽ジャンルごとの特徴を理解することで、音楽をより深く楽しむことができるでしょう。

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