クリアン

クリアン（Khleangs）は、カンボジアのアンコール遺跡群、特にアンコール・トムの王宮東側に位置する二つのヒンドゥー教遺跡です。象のテラスと向かい合うプラサット・スゥル・プラットの12塔のすぐ東に位置し、王宮から勝利の門へと続く王道によって南北に分断されています。

これらの二つの建造物は、その目的が未だ解明されていない謎めいた存在であり、南北軸に沿って配置されています。興味深いことに、二つの建造物は同時期に建設されたものではなく、北側の「北クリアン」はジャヤーヴァルマン5世（在位968-1000年）の時代に、南側の「南クリアン」は彼の後継者スーリヤヴァルマン1世（在位1002-1050年）の時代に建設されました。しかし、両者は類似した設計で建てられており、南クリアンの方がわずかに狭いという違いがあります。

これらの建造物は、「クリアン様式」と呼ばれる独特の建築様式を特徴としています。この様式は、中央にカーラ（キールティムカ）を配した比較的シンプルなまぐさ（リンテル）が特徴で、この様式を持つ他の建造物としては、ピミアナカスやタ・ケウ、王宮の塔門などが挙げられます。

「クリアン」という名称は「収蔵庫」を意味し、かつては寺院の宝物庫や王室の財宝を収蔵した場所と考えられていました。しかし、実際の構造から判断すると、その機能は収蔵庫ではなかった可能性が高いとされています。クリアンの入口には忠誠を誓う王の言葉が刻まれていることから、貴族や大使などの訪問者のための応接の場、またはそれに類する居住空間として使用されていた可能性が指摘されています。

北クリアンは、元々はラージェンドラヴァルマン（在位944-968年）の時代に木造で建てられましたが、その後、ジャヤーヴァルマン5世によって石造りに改築されたと考えられています。この改築は、おそらく南クリアンの建設よりも前に行われたものとされています。

このように、クリアンはアンコール遺跡群の中でも独特の存在であり、その歴史や機能は多くの謎に包まれています。しかし、その建築様式や立地、そして刻まれた文字から、古代クメール王国の歴史を理解する上で重要な手がかりを提供してくれます。クリアンは、アンコール遺跡群を訪れる人々にとって、その歴史的な背景を深く理解する上で見逃せない場所の一つです。

参考文献
Rooney, Dawn F. (2011). Angkor: Cambodia's Wondrous Khmer Temples (6th ed.). Odissey. ISBN 978-962-217-802-1

関連項目
アンコール遺跡
* アンコール・トム

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