プラサット・スゥル・プラット

プラサート・スゥル・プラットとは

プラサート・スゥル・プラット（Prasat Suor Prat）は、カンボジアのシェムリアップ近郊、アンコール遺跡群の一部であるアンコール・トムに存在する12基の塔の遺跡です。象のテラスの前に位置し、王宮から勝利の門へと続く王道の正面に並んでいます。これらの塔は12世紀末、ジャヤーヴァルマン7世の治世にバイヨン様式で建てられたと考えられていますが、正確な年代ははっきりしていません。

「綱渡りの塔」（Towers of Cord Dancers）という別名もあり、これは祭典の際に、塔の間に張られた綱を渡る曲芸が王に披露されたという伝説に由来します。しかし、これらの塔が実際にどのような目的で使用されていたのかは、現在も様々な説が提唱されています。

構成

12基の塔は、王宮前広場の東側に南北に配置されており、東の勝利の門へと続く道路の両側に、それぞれ6基ずつ並んでいます。道路のすぐ脇にある2基は、他の塔よりも少し東側に位置し、それぞれ道路側が正面を向いています。残りの南北各5基は、広場側（西側）を正面としています。発掘調査により、これらの塔群の西側にはテラスがあったことが確認されています。

フランス極東学院 (EFEO) は、これらの塔を北から順にNo. 1、No. 2と呼んでいましたが、日本国政府アンコール遺跡救済チーム (JSA) は、道路を基準として、北側の塔群をN1からN6、南側の塔群をS1からS6と名付けています。N1からN3塔とS1からS3塔の背後には、それぞれ長方形の沐浴池があり、N4-N5塔とS4-S5塔の背後には、それぞれ北クリアンと南クリアンと呼ばれる建物があります。

構造

塔は、上下の基壇と基座がラテライトで築かれており、開口部枠や破風などの装飾部には砂岩が使われています。各塔は、主塔1室からなる方形の3層構造で、正面入口には前室があります。しかし、層を隔てる床面はなく、第1層の上部に木製の天井があったと考えられています。塔の側面と背面には大きな窓が設けられ、前室の左右にも連子窓が備えられています。

用途

塔群は、クメール語で「綱渡り芸人の祠堂」を意味する名前を持ち、祭典で綱渡りが行われたという伝説がありますが、実際の用途は不明です。

13世紀末に周達觀が記した『真臘風土記』には、塔が裁判に使われたという記述があります。それによると、争いのある二人がそれぞれの塔に数日間閉じ込められ、道理のない者には身体に異変が現れたとされています。これは天の裁きとされていたようです。

19世紀のアンリ・ムーオは、塔が宝物庫として王室の財宝を保管するために使われていたと述べています。また、王への忠誠を誓う儀式の祭壇として機能したという説や、大閲兵式の際の観覧席として使われたという説もあります。

塔の一部にはリンガやヨニ、ヴィシュヌ像が残されており、ヒンドゥー教寺院として使われた時代があったことは確実です。

修復

フランスによる整備・修復の際、各塔に手が加えられました。1955年から1960年代にかけては、N3塔が解体・修理されました。その後、12基の塔の中でも最も傾斜が大きかったN1塔の長期的な安定化が問題となり、日本国政府アンコール遺跡救済チーム (JSA) が、アプサラ機構の協力のもと、1999年から2005年にかけてN1塔を解体・再構築しました。

この修復により、遺跡の保存と安定化が進められています。

脚注

参考文献

周達觀 著、和田久徳 訳『真臘風土記』平凡社〈東洋文庫〉、1989年。ISBN 4-582-80507-8。

関連項目

アンコール遺跡
* アンコール・トム

外部リンク

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