クリスチャン・アンフィンセン

クリスチャン・アンフィンセン

クリスチャン・ボーマー・アンフィンセン・ジュニア（Christian Boehmer Anfinsen, Jr.）は、1916年3月26日にペンシルベニア州モネソンで生まれたアメリカ合衆国の傑出した生化学者です。彼は特に、タンパク質の生物学的な機能に不可欠な立体構造が、それを構成するアミノ酸の並び順（一次構造）のみによって決定されるという画期的な発見、「アンフィンセンのドグマ」を提唱したことで知られています。

若年期と教育

アンフィンセンはノルウェー系アメリカ人の家庭に育ちました。学術的な道を歩み始め、1937年にはスワースモア大学を卒業しました。その後、ペンシルベニア大学で学び、1939年に修士号を取得しています。さらなる研究のため、ハーバード・メディカルスクールに進学し、生化学の分野で深い知識を身につけ、1943年に博士号（Ph.D.）を取得しました。

職歴と研究活動

博士号取得後、アンフィンセンは母校であるハーバード大学で助教授として教鞭を執り、研究を続けました。1950年までのハーバードでの期間を経て、彼はアメリカ国立衛生研究所（NIH）に移籍し、ここでキャリアの大半を過ごすことになります。NIHでは、分子生物学やタンパク質科学における重要な研究を推進し、1981年までその活動を続けました。その後、1982年から亡くなる1995年までの期間は、ジョンズ・ホプキンス大学の生物学教授として、後進の指導と研究に情熱を注ぎました。

主要な研究成果と「アンフィンセンのドグマ」

アンフィンセンの最も著名な研究は、タンパク質のフォールディング（折りたたみ）に関するものです。特に、彼はリボヌクレアーゼという酵素を用いた一連の実験で、画期的な知見を得ました。1961年に行われた重要な実験では、彼はリボヌクレアーゼを化学的に処理してその立体構造をほどき（変性）、酵素としての活性を失わせました。驚くべきことに、この変性させたリボヌクレアーゼを適切な条件下に戻すと、タンパク質は自発的に元の立体構造を取り戻し、酵素としての活性も回復したのです。

この実験結果は、タンパク質がどのような立体構造を取るべきか、そしてどのように機能するべきかに関する全ての情報が、そのタンパク質を構成するアミノ酸の並び順、すなわち一次構造の中に既にコード化されていることを強く示唆しました。この概念は後に「アンフィンセンのドグマ」として知られるようになり、分子生物学における基本的な原則の一つとなりました。

ノーベル賞受賞

アンフィンセンのドグマを確立した、リボヌクレアーゼの研究、特にアミノ酸配列がタンパク質の生物学的な活性構造にどのように関係しているかを明らかにした功績は、科学界に多大な影響を与えました。この業績が認められ、彼は1972年にノーベル化学賞を受賞しました。この年のノーベル化学賞は、リボヌクレアーゼに関する他の研究者、スタンフォード・ムーアとウィリアム・スタインと共に分かち合う形での受賞となりました。

その他の側面

科学的な功績に加えて、アンフィンセンは後にユダヤ教正統派に改宗したことでも知られています。

クリスチャン・アンフィンセンの研究は、タンパク質の構造と機能の関係に関する理解を深め、その後のタンパク質科学、構造生物学、さらにはバイオテクノロジーの発展に計り知れない貢献をしました。彼の確立した「アンフィンセンのドグマ」は、現在でもタンパク質の研究における基礎的な考え方として広く受け入れられています。

もう一度検索