クリスティーナ・グリミー

クリスティーナ・ヴィクトリア・グリミー

クリスティーナ・ヴィクトリア・グリミー（Christina Victoria Grimmie、1994年3月12日 - 2016年6月10日）は、アメリカ合衆国出身のシンガーソングライターであり、人気YouTuberとしても知られています。特に動画投稿サイトYouTubeでのカバー曲の披露と、NBCのオーディション番組「The Voice」シーズン6への参加で大きな注目を集めました。その短いながらも輝かしいキャリアは、わずか22歳で突然の悲劇によって幕を閉じました。

生い立ちと音楽との出会い

ニュージャージー州マールトンで育ったクリスティーナは、イタリアとルーマニアの血を引いています。彼女の歌唱力は6歳の時に父親によって見出され、10歳からはピアノを弾き始めました。学生時代はバプテスト・リージョナル小学校、チェロキー高等学校に通いましたが、2010年には自宅学習に切り替えています。彼女は多くの場面で自身がクリスチャンであることを公言していました。

YouTubeでのブレイク

クリスティーナのキャリアは、2009年に15歳で開設したYouTubeチャンネルから始まりました。最初に投稿したハンナ・モンタナのカバー動画を皮切りに、様々なアーティストの楽曲を独創的にカバーして投稿し、次第に人気を獲得していきます。特に、マイリー・サイラスの「Party in the U.S.A.」のカバーは多くの視聴者にリーチしました。2010年には、同じくYouTubeで知られていたサム・ツイ（Sam Tsui）とのデュエットによるネリーの「Just a Dream」のカバー動画が驚異的な再生回数を記録し、彼女の認知度を飛躍的に高めました。2013年4月までに、彼女のチャンネルは総再生回数3億7千500万回、チャンネル登録者数200万人以上を突破し、YouTubeにおける歌手として歴代4位の登録者数を誇るほどの人気となりました。この人気を受けて、「MyYouTube competition」ではセレーナ・ゴメスに次ぐ2位に入賞するなど、多くの有名アーティストを凌駕する存在となりました。YouTubeでの成功がきっかけとなり、セレーナ・ゴメスの母親であるマンディーの目に留まり、彼女の夫ブライアンがマネージャーを務めることとなりました。

音楽キャリアの発展

YouTubeでの成功を足がかりに、クリスティーナは本格的な音楽活動へと進んでいきます。2011年にはユニセフのチャリティーコンサートに参加し、セレーナ・ゴメス＆ザ・シーンのバックボーカルを務めるなど、プロの現場を経験しました。同年、YouTubeアーティストに特化したライブイベント「DigiTour」に出演し、「Billboard Social 50」にもランクイン。また、セレーナ・ゴメスやジョナス・ブラザーズのコンサートでオープニングアクトを務めました。セレーナ・ゴメスをメンターとして慕い、彼女の「ウィー・オウン・ザ・ナイト・ツアー」にも帯同しました。そして、2011年6月14日に待望のデビューEP「Find Me」をリリースしました。

2012年にはキャリアアップのためロサンゼルスに移住。クリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシーと契約を結び、Disney.comのウェブショー「Power Up: with Christina Grimmie」で主演を務めるなど活動の幅を広げました。2013年にはセレーナ・ゴメスの「Stars Dance Tour」で再び前座を務め、同年8月6日には2枚目のアルバム「With Love」を発表しました。このアルバムからの楽曲「Tell My Mama」のミュージックビデオはビルボードでも紹介され、自身の恋愛観を反映した楽曲として話題になりました。

「The Voice」への挑戦

2014年、クリスティーナは自身のFacebookで人気テレビ番組「The Voice」シーズン6へのオーディション参加を表明しました。予選ラウンドではマイリー・サイラスの「Wrecking Ball」を披露し、その圧倒的な歌唱力で審査員のアダム・レヴィーン、アッシャー、シャキーラ、ブレイク・シェルトン全員を魅了し、彼ら全員がコーチ就任を熱望しました。クリスティーナは最終的にアダム・レヴィーンをコーチに選び、彼の指導のもとファイナルまで勝ち進み、見事3位という成績を収めました。

番組後の活動とメジャー契約

「The Voice」での成功後、複数の著名なレーベルがクリスティーナに関心を示しました。コーチを務めたアダム・レヴィーンは自身のレーベル「222レコード」への契約を強く望み、ラッパーのリル・ウェインも「ヤング・マネー・エンターテインメント」との契約を申し出ました。クリスティーナは最終的に「アイランド・レコード」と契約しましたが、後にこの契約は解除されます。メジャー契約後、「The Voice Summer Tour」に参加し、新たなアルバムのための楽曲制作やレコーディングを開始しました。先行シングルのリリースは何度か延期されましたが、2014年7月に「Must Be Love」を発表しました。2015年にはアイランド・レコードとの契約解除を発表し、独立した活動を再開。同年後半のリリースを目指し、新たなアルバムの制作を進めました。そこから「Cliché」、「Stay With Me」、「Shrug」といったシングルをリリースしました。また、2015年にはポール・マッカートニーらと共に、チャリティーソング「Love Song to the Earth」のレコーディングに参加しています。2016年2月には2枚目のEP「Side A」をリリースし、年内のフルアルバムリリースを目指していました。同年公開された映画「The Matchbreaker」にも出演し、活動の幅を広げていました。

歌声と影響

クリスティーナは3オクターブを超える広い音域を持ち、その歌声は高く評価されていました。「The Voice」で彼女のパフォーマンスを見たアッシャーは「“ベビー”セリーヌ・ディオン」と称賛し、グラハム・ナッシュは「20歳とは思えないほどの音域コントロール」とその技術を評しました。幼い頃からクリスチャン歌手ステイシー・オリコの音楽に影響を受け、彼女の魂のこもった歌唱スタイルや楽曲制作に強い憧れを抱いていました。また、クリスティーナ・アギレラやビヨンセといったディーヴァたちも尊敬し、彼女たちの発声法や歌い方からも影響を受けていると語っています。音楽の好みは幅広く、ダブステップ、DJ音楽から、メタリカやパンテラなどのロック・ヘヴィメタルまで様々なジャンルを好んでいました。

悲劇的な最期

2016年6月10日金曜日、フロリダ州オーランドのプラザ・ライブで行われたビフォー・ユー・エグジットとのコンサート終了後、ファンとのサイン会に臨んでいたクリスティーナは、一人の男性によって突然銃撃されました。ファンにハグをしようと両腕を広げた瞬間に3発の銃弾を受けたと報じられています。現場に駆けつけた彼女の兄が犯人を取り押さえようとしましたが、犯人はその場で自殺しました。クリスティーナは重体で病院に搬送されましたが、数時間後に死亡が確認されました。享年22歳でした。

犯人が自殺したため正確な動機は不明ですが、警察の捜査によると、犯人はクリスティーナの熱狂的なファンであり、彼女を「運命の人」と一方的に信じ込んでいたとされています。しかし、彼女に恋人がいることを知ったことで愛情が憎しみに変わり、無理心中を図った可能性が指摘されています。この悲劇的なニュースは音楽業界に大きな衝撃を与え、「The Voice」や関係者（アダム・レヴィーン、共演者、ビフォー・ユー・エグジット）からは追悼のメッセージが相次ぎました。クリスティーナの母親は、事件直後の怒りを乗り越えつつも、「なぜ」という問いを神に投げかける痛ましい胸中を明かしました。

追悼と影響

クリスティーナの追悼式は、2016年6月17日に、彼女が育ったニュージャージー州メドフォードの教会で執り行われました。1500人を超えるファンや友人、家族が集まり、彼女の突然の死を悼みました。参列したファンからは、彼女がファンを家族のように大切にしていたことを証言する声が聞かれました。追悼式では、家族が壇上からメッセージを送り、兄は妹の行動を勇敢だったと称え、両親は信仰と愛情をもって娘を偲びました。

彼女の死後も、クリスティーナへの愛は続きました。2016年6月17日には、家族によってメモリアル動画がYouTubeに投稿され、数百万回再生されました。また、生粋の「ゼルダの伝説」ファンであった彼女へのオマージュとして、任天堂の新作ゲームにキャラクター出演を求める署名活動が行われ、75000人以上の賛同が集まりました。任天堂側もこのファンの思いを受け止めると表明しています。

クリスティーナの射殺事件は、コンサート会場におけるセキュリティのあり方について、社会的な議論を巻き起こしました。過去にも同様の事件（ダメージプランのギタリスト射殺事件）が発生しており、その類似性からアーティストの安全確保の重要性が改めて叫ばれることとなりました。さらに、ビルボード紙は約200人の音楽業界著名人（ビリー・ジョエル、シェール、ジェニファー・ロペス、レディー・ガガらを含む）の署名を集め、銃購入に関する厳格な経歴調査や、テロリストへの銃販売禁止を求める公開状を連邦議会に提出しました。これは、オーランドで同時期に発生した別の銃乱射事件とも関連付けられ、銃規制強化を求める動きへと繋がりました。

遺作のリリース

クリスティーナの死後、未発表だった楽曲が遺族によって公開されました。2017年2月には遺作となる「Invisible」の音源が発表され、同年3月12日の彼女の誕生日にはアニメーションキャラクターとして登場するミュージックビデオが公開されました。短い生涯の中で、クリスティーナ・グリミーは多くのファンに愛され、その才能と人柄は今もなお多くの人々の心に深く刻まれています。

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