クリスティーヌ・ド・ダヌマルク

クリスティーヌ・ド・ダヌマルク（Christine de Danemark）は、1521年11月にデンマーク王クリスチャン2世と王妃イサベル・デ・アウストリアの末娘として、フュン島のニュボー城で生を受けました。彼女は後にロレーヌ公フランソワ1世の妃となります。デンマーク名はクリスティナ・ア・オレンボー、イタリア名ではクリスティーナ・ディ・ダニマルカと呼ばれます。

生涯

王女として生まれたクリスティーヌでしたが、その幼少期は波乱に満ちていました。1523年、父クリスチャン2世が王位を追われると、一家はフランドルへの亡命を余儀なくされます。困窮した状況を見かねた母方の大叔母、フランドル総督マルグリット・ドートリッシュは、クリスティーヌたち子供たちを引き取りました。彼女たちは大叔母のもとで、カトリック信仰に基づいて養育されました。

成長したクリスティーヌは、ヨーロッパ列強間の複雑な関係の中で、政略結婚の道具として扱われます。1533年9月、彼女はミラノ公フランチェスコ2世・スフォルツァとの代理結婚式をブリュッセルで行いました。翌1534年にミラノへ移り、5月4日に正式な結婚式が執り行われましたが、この最初の結婚生活は短命に終わります。わずか一年後の1535年、夫フランチェスコ2世が死去し、クリスティーヌは若くして未亡人となりました。

ミラノからフランドルの宮廷に戻った彼女は、1538年に歴史に名を残すことになる出来事に遭遇します。イングランド王ヘンリー8世に仕える著名な画家ハンス・ホルバインがブリュッセルを訪れ、彼女と面会したのです。ヘンリー8世は1537年に三人目の王妃ジェーン・シーモアを亡くしており、新たな妃候補を積極的に探していました。ホルバインは密命を受け、有望な花嫁候補であったクリスティーヌの肖像を描くために派遣されたのでした。ホルバインによって描かれた肖像画は、喪服に身を包んだ彼女の気高く美しい姿を捉えており、今なおその芸術的価値と共に、歴史上の人物としての彼女を伝える重要な手がかりとなっています。

イングランド大使を通じてヘンリー8世からの正式な求婚が伝えられました。しかし、クリスティーヌは賢明にもこの申し出を受け入れませんでした。当時のヨーロッパでは、ヘンリー8世が最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴン（クリスティーヌの母方の大叔母にあたる）を離縁し、二人目の王妃アン・ブーリンを処刑するなど、王妃たちに厳しい態度をとっていたことが広く知れ渡っていました。自身の運命を悟っていたのか、あるいは王の評判を憂慮したのか、クリスティーヌは機知に富んだ言葉で求婚を退けたと言われています。「もし私に二つの頭があるならば、喜んで陛下と結婚いたしましょう」と述べ、自身の身の危険を示唆しつつ、巧みに王からの圧力をかわしました。

ヘンリー8世との結婚話が立ち消えとなった後、クリスティーヌは新たな道を歩みます。1541年 6月10日、彼女はバール公フランソワと結婚しました。この結婚にも因縁めいたものがありました。夫となるフランソワはかつて、後にヘンリー8世の四番目の王妃となるアンナ・フォン・クレーフェと婚約していましたが、クリスティーヌとの結婚を選んでアンナとの婚約を解消していたのです。フランソワは1544年に父アントワーヌの跡を継いでロレーヌ公フランソワ1世となりますが、その治世はわずか一年余りで終わりを迎えます。1545年にフランソワが早世すると、幼い長男シャルルがロレーヌ公シャルル3世となりました。母であるクリスティーヌは、息子の幼少期から青年期にかけて、長くロレーヌ公国の摂政として辣腕を振るいました。

摂政としての責務を終えた後、クリスティーヌはイタリアに戻り、最初の夫ミラノ公から寡婦財産として与えられていたトルトーナで晩年を過ごしました。そして、1590年 8月10日、波乱と誇りに満ちた生涯を閉じました。

子供たち

ロレーヌ公フランソワ1世との間には、三人の子供が生まれました。

シャルル（1543年 - 1608年）
ロレーヌ公シャルル3世。母方の伯父である神聖ローマ皇帝カール5世にちなんで名付けられました。
ルネ（1544年 - 1602年）
バイエルン公ヴィルヘルム5世と結婚しました。
* ドロテ（1545年 - 1621年）
ブラウンシュヴァイク＝カーレンベルク公エーリヒ妃。夫との死別後、ヴァランボン侯マルクと再婚しました。

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