イサベル・デ・アウストリア

イサベル・デ・アウストリア（西：Isabel de Austria）は、1501年 5月18日に生まれ、1525年 1月18日に亡くなったハプスブルク家の女性です。彼女は、ブルゴーニュ公フィリップ美公とカスティーリャ女王フアナの間に生まれた次女であり、後の神聖ローマ皇帝カール5世の妹、そしてフェルディナント1世の姉にあたります。デンマーク語ではイサベラ・ア・ブアグン、あるいはエリサベト・ア・ウストリとも呼ばれ、デンマーク王クリスチャン2世の王妃となりました。

幼少期と結婚

イサベルの母であるカスティーリャ女王フアナは精神的な問題を抱えており、「狂女王」として知られるように、幼い子供たちの養育が困難な状態でした。そのため、イサベルは姉レオノール、妹マリアといった他の兄弟姉妹と共に、ネーデルラント総督を務めていた叔母マルグリットのもとで育てられました。姉妹たちは皆、知性と教養に富み、祖父マクシミリアンや叔母マルグリットと同じく音楽の才能に恵まれ、クラヴィコード、リュート、ハープといった様々な楽器を巧みに演奏できたと伝えられています。

1515年、14歳になったイサベルは、遠く離れたデンマーク王クリスチャン2世のもとへ嫁ぐことになりました。しかし、クリスチャンは、その粗暴さや残虐性で知られていました。にもかかわらず、祖父である神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世は、デンマークとの同盟がもたらす政治的な利点を優先し、クリスチャンの悪評を知りながらも、十分な調査をすることなく、代理人による結婚手続きを進めてしまったのです。

デンマークでの苦難

当時のクリスチャンは、デューヴェケという名の女性を深く寵愛していました。デューヴェケはオランダ出身の居酒屋の女主人ズィグブリッテ・ヴィレムスの娘であり、コペンハーゲンに居を移した国王は、愛人であるデューヴェケのために豪華な部屋を用意するほどでした。ズィグブリッテは、娘に溺れるクリスチャンを巧みに操り、自身の兄弟や従兄弟といった親族を次々と政治の中枢に送り込み、絶大な影響力を持つようになります。王室秘書官のエリック・ヴァルケンドルフ司教は、国王のこうした振る舞いや愛人一族の専横を諫めようと、王が正式な王妃を迎え、彼らの影響力を排除するよう忠告しました。クリスチャンは結婚自体には同意したものの、愛人一族を追放することは頑として拒んだため、クリスチャンの王妃として白羽の矢が立ったのがイサベルだったのです。

しかし、コペンハーゲンに到着しクリスチャンの王妃となったイサベルを待っていたのは、夫の愛人一族に囲まれた冷遇でした。正式な婚礼の祝宴さえ催されなかったと伝えられるほどです。夫であるクリスチャンは、イサベルのもとを訪れることは稀で、言葉を交わすこともほとんどありませんでした。世継ぎを得るためだけに夜を共にしても、すぐに自室に戻ってしまうありさまだったのです。国王の関心は、もっぱら愛人デューヴェケに向けられていました。

激化する対立と夫の廃位

イサベルの置かれた悲惨な境遇や、デンマーク宮廷の尋常でない状況は、各国の外交官を通じてたちまちヨーロッパ中に知れ渡りました。この情報は祖父マクシミリアンにも届き、彼はイサベルの兄であるカールを通じてクリスチャンに抗議を行いました。しかしクリスチャンはこれに激怒し、イサベルが最も頼りにしていた女官長を国外に追放しただけでなく、愛人の母ズィグブリッテを新たな女官長に据えました。ヴァルケンドルフ司教も罷免され、その後任にはズィグブリッテの親族が就任するなど、愛人一族の権勢は増すばかりでした。さらに、イサベルの三人の子供たちの教育も、ズィグブリッテの一派に委ねられることになったのです。

1517年、愛人デューヴェケが急死しました。クリスチャンはこれを暗殺と断定し、関係者と見なした数名を処刑しました。愛人の死後、クリスチャンは統治において一層残酷さを増していきました。特に1520年の「ストックホルムの血浴」として知られる事件では、スウェーデンの貴族や市民数百人が一日で処刑されるという、凄惨な出来事を引き起こしました。こうした暴政に対し、デンマーク国民の不満は頂点に達し、1523年、クリスチャンは廃位され、叔父であるフレゼリク1世が新たな国王となりました。

亡命生活と不遇な最期

廃位されたクリスチャンは、イサベルと子供たちを連れて、彼の故郷であるネーデルラントへと亡命しました。彼らはまずヘントに身を寄せた後、人目につかないリエという小さな町で静かに暮らしました。フレゼリク1世はイサベルに対し、デンマークに戻るよう促しましたが、彼女は夫のもとに留まる道を選びました。さらに彼女は、ニュルンベルクで開催された帝国議会に出席し、夫こそが正当なデンマーク王であると主張して復位を訴えるなど、クリスチャンのために奔走しましたが、その努力が報われることはありませんでした。

亡命生活の中で、イサベルはプロテスタント信仰に傾倒していきました。また、一家は極度の貧困に苦しみ、食料を得るために子供たちの持ち物まで売らざるを得ない状況だったといいます。イサベルたちの窮状を知った叔母のマルグリットは、子供たち（ハンス、ドロテア、クリスティナ）を自身の保護下に置き、メヘレンでカトリック教育を受けさせるために引き取りました。愛する子供たちと引き離され、深い絶望に沈んだイサベルは、1525年 1月18日、わずか23歳でその波乱に満ちた生涯を終えました。

イサベルには、ハンス、フィーリプ・フェアディナン、マクシミリアン、ドロテア、クリスティーネの五人の子供がいました。特に末娘クリスティナの系統からは、後にマリア・テレジアの夫となるフランツ1世が出ているため、イサベルの子孫は二世紀を経て、ハプスブルク家の本流へと再び繋がることになったのです。

子女

- ハンス（1518年 - 1532年）
- フィーリプ・フェアディナン（1519年 - 1520年） - 双子
- マクシミリアン（1519年） - 双子
- ドロテア（1520年 - 1580年） - プファルツ選帝侯フリードリヒ2世と結婚
- クリスティーネ（1521年 - 1590年）- ミラノ公フランチェスコ2世と結婚、ロレーヌ公フランソワ1世と再婚

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