フランチェスコ2世・スフォルツァ

フランチェスコ2世・スフォルツァ（1495年 2月4日生 - 1535年 11月2日没）は、ルネサンス期のイタリアにおいて、ミラノ公国を統治した最後のスフォルツァ家出身の人物です。その治世は1521年から1535年に及び、イタリア戦争の渦中で波乱に満ちた生涯を送りました。

彼はミラノ公ルドヴィーコ・スフォルツァ（通称イル・モーロ）とベアトリーチェ・デステの次男として生まれました。父ルドヴィーコがフランス王ルイ12世とのイタリア戦争に敗れてミラノから追われることになった際、幼いフランチェスコは父に連れられて神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の宮廷へ身を寄せました。皇帝マクシミリアン1世は、フランチェスコの父方の従姉妹にあたるビアンカ・マリアと結婚していた縁があったためです。当初、フランチェスコは家門の行く末を見守りつつ、聖職者としての道を歩むことが定められていました。一方、フランス軍に捕らえられた父ルドヴィーコは、ロワール地方のロシュ城に幽閉され、1508年にその生涯を終えました。フランチェスコは、父の死とミラノがフランスの支配下にある状況を見据えながら、復権の機会をうかがうことになります。

転機が訪れたのは1521年でした。神聖ローマ皇帝カール5世がフランスからミラノを奪還すると、皇帝はスフォルツァ家の正統な後継者であるフランチェスコをミラノ公として擁立しました。これにより、フランチェスコは故郷であるミラノへと戻ることができましたが、その立場は非常に不安定なものでした。公国の領域は神聖ローマ皇帝の軍、実質的にはスペイン軍によって占領されており、フランチェスコの主権は著しく制限されていたからです。彼は名目上の支配者でありながら、皇帝の強い影響下に置かれ、自らの意思で国を動かすことが難しい状況にありました。

長引くイタリア戦争は、ミラノ公国に甚大な被害をもたらし、国土は荒廃し、経済は疲弊していました。フランチェスコ2世は、このような困難な状況の中で公国を統治することになります。彼は故郷の文化的および経済的な回復を促進するために尽力したと伝えられています。戦乱によって傷ついた都市や農村の再建、経済活動の活性化に向けた取り組みを行ったと考えられます。しかし、彼の治世は常に戦争と隣り合わせでした。

フランチェスコは皇帝の同盟者として、1522年のビコッカの戦いにも参加しました。この戦いは、皇帝軍がフランス軍に勝利し、ミラノにおける皇帝の支配権を確固たるものとした重要な戦闘です。しかし、その後の情勢は変化します。カール5世の勢力拡大を警戒したフランス王フランソワ1世、ローマ教皇クレメンス7世、ヴェネツィア共和国、フィレンツェ共和国は、1526年にコニャック同盟を結成して皇帝に対抗しました。フランチェスコ2世もこの同盟に加わります。かつて自らを公位に就けた皇帝に対し、ミラノの独立と自らの実権回復を目指して反旗を翻した形となりました。この同盟戦争において、フランチェスコはミラノの居城であるスフォルツェスコ城で皇帝軍に包囲されるなど、苦境に立たされました。

私生活においては、1534年5月4日に、デンマーク王クリスチャン2世とカール5世の妹イサベル・デ・アウストリアの間に生まれた姪にあたる12歳のクリスティーナと結婚しました。これは政略結婚の色が濃いものでしたが、この結婚から子供は生まれませんでした。後継者不在は、スフォルツァ家の将来、ひいてはミラノ公国の運命に暗い影を落とすことになります。

1535年 11月2日、フランチェスコ2世は子供を残すことなく世を去りました。彼の死により、スフォルツァ家は断絶し、ミラノ公国の後継者問題が深刻化しました。この継承問題は、カール5世とフランソワ1世の対立を再燃させ、第四次イタリア戦争（1536年-1538年）の勃発の直接的な契機となりました。フランチェスコの死後、彼の異母弟であるジョヴァンニ・パオロが短期間ミラノ公位を主張しましたが、同年中に謎の死を遂げたため、スフォルツァ家のミラノ公国支配は完全に終焉を迎えました。

フランチェスコ2世・スフォルツァは、スフォルツァ家によるミラノ統治の終焉を飾った人物として、イタリア戦争という激動の時代を生きたその生涯は、当時の複雑な国際情勢とイタリア諸国の苦難を象徴しています。

その短い治世の間、制限された権力の中でも公国の復興に努めましたが、家系の断絶と突然の死により、ミラノは再び大国の争いの舞台となり、最終的にハプスブルク家の支配下へと組み込まれていく運命を辿ることになります。彼の人生は、ルネサンス期のイタリアにおける小国家の脆弱性と、大国の覇権争いに翻弄される実情を体現していました。

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