クリップスピンク

クリップスピンク（ピンクレディー）とは

クリップスピンク（Cripps Pink）は、オーストラリアで開発されたリンゴの品種です。ゴールデンデリシャスとレディウィリアムズを交配して生まれました。1986年に品種登録され、その中でも一定の品質基準を満たしたものが「ピンクレディー (Pink Lady)」の登録商標名で販売されています。

ピンクレディーは、一般的なリンゴよりも高価なプレミアムブランドとして知られています。これは、生産者協会を基にした組織 (APAL) が商標権を管理し、品質を厳格に管理しているためです。

特徴

クリップスピンクは、温暖な気候での栽培に適しており、150日以上の無霜期間と暑い夏を必要とします。一方で、短期間であれば-20°Cにも耐えることができます。樹は強健で直立して広がる性質を持ちますが、黒星病、うどんこ病、火傷病にかかりやすいという特徴もあります。自家不和合性であり、日本では11月下旬に収穫される晩生品種です。

果実は長円形でやや円錐形をしており、重さは約200グラム。表面が少しボコボコしていることもあります。熟すと地色は黄色くなり、濃いピンク色に染まります。果肉は硬く、緻密で果汁が豊富。酸味が強めですが、糖度も高く、甘酸っぱい濃厚な味わいが楽しめます。貯蔵性にも優れており、翌年の春まで出荷が可能です。

登録商標

クリップスピンクは、西オーストラリア州農業食品省 (DAFWA) が所有権とライセンスを持ち、複数の国で育成者権を有しています。Pink Kiss、Pink Rose、Swiss Lady、Pinkabelle などの名前でも販売されることがあります。

ピンクレディーとして販売されるためには、糖度、硬さ、傷、色などの厳しい品質基準を満たす必要があります。これらの基準を管理しているのは、オーストラリアのリンゴ・ナシ生産者団体を基にした「りんご・なしオーストラリア」(Apple and Pear Australia Limited; APAL) です。ピンクレディーの商標は80以上の地域で登録されており、生産・流通・苗木生産者によるクラブ制度によって管理されています。この制度により、安定した高価格とクラブメンバー間での適切な利益分配が可能になっています。ヨーロッパでは、「ただのリンゴではない (More than just an apple)」というキャッチフレーズでブランドを構築しています。

このようなブランド戦略の結果、ピンクレディーは一般的なリンゴよりも高価なプレミアムブランドとしての地位を確立しました。

他の品種への影響

ピンクレディーの販売で構築されたクラブ制度は、他のリンゴ品種にも影響を与えました。‘Nicoter’（商品名：カンジ）、‘MN 1711’（商品名：ハニークランチ）、‘Caudle’（商品名：カメオ）、‘Delblush’（商品名：テンテーション）などが同様の制度を採用しています。中でも、ニュージーランドで育成された‘サイフレッシュ’のブランドである「ジャズ」は、最も成功した例として知られています。

生産

クリップスピンクは、オーストラリア以外にも、ニュージーランド、チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル、南アフリカ、イスラエル、ヨーロッパ、米国など、世界中で栽培されています。日本では2006年に長野県でピンクレディー協会が設立されましたが、日本市場向けには酸味が強すぎるという意見もあります。

2022/2023年の米国におけるクリップスピンク（ピンクレディー）の生産量は、11,845,811ブッシェルで、全リンゴ生産量の4.8%、品種別では第7位でした。同年のヨーロッパにおける生産量は、16,744,614ブッシェルで、全体の2.7%、品種別では第11位でした。

歴史

クリップスピンクは、1973年に西オーストラリア州農業省（現 Department of Primary Industries and Regional Development）のジョン・クリップスが、ゴールデンデリシャスを種子親、レディウィリアムズを花粉親として交配したことによって生まれました。この交配に由来する個体は1979年に初めて果実をつけ、選抜され1986年に‘クリップスピンク’として登録されました。ゴールデンデリシャスの持つ甘さと貯蔵性の高さ、レディウィリアムズの持つ果肉の硬さと長期貯蔵に耐える特徴を兼ね備えています。この交配では、‘Cripps Red’（商品名：Sundowner）と‘Cripps Two’も同時に作出・登録されています。

ブランド名である「ピンクレディー」は、ジョン・クリップスが好む同名のカクテルに由来しています。

派生品種

リンゴは接ぎ木によって増やすため、基本的には遺伝的に同一なクローンですが、まれに突然変異によって枝変わりが生じることがあります。クリップスピンクにも多くの枝変わり品種が存在し、‘ロージーグロウ (Rosy Glow)’、‘ルビーピンク (Ruby Pink)’、‘レディーインレッド (Lady in Red)’、‘PLBAR B1’（商品名：Barnsby）などが知られています。これらの枝変わり品種も、商標所有者の同意を得てピンクレディーブランドとして扱われています。

特に‘ロージーグロウ’は、原品種に比べて着色が良いため、2005年に欧州ピンクレディー協会は、消費者の混乱を防ぐために欧州での苗木販売を‘ロージーグロウ’に統一することを決定しました。

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