クリープ (レディオヘッドの曲)

レディオヘッドの代表曲「クリープ」

「クリープ」（Creep）は、イギリスのロックバンド、レディオヘッドが1992年に発表した楽曲で、彼らのデビューアルバム『パブロ・ハニー』からの先行シングルとしてリリースされました。この曲は、バンドの初期の代表作であり、世界的に大ヒットを記録し、彼らの名を一躍有名にしました。ニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」やベックの「ルーザー」などと並び、オルタナティブ・ロックのムーブメントを象徴する曲として、しばしば言及されます。

楽曲の特徴

この曲は、G–B–C–Cmの循環コード進行が特徴的です。キーをGメジャーと捉えると、I-III-IV-ivの進行となり、このタイプの循環は、バンドが「スコット・ウォーカーソング」と語るように、オールディーズの雰囲気を漂わせています。アルペジオはエド・オブライエンが担当し、サビで入ってくるグランジ調の激しいギタープレイは、ジョニー・グリーンウッドによるものです。このディストーションギターは、エドが冗談交じりに「ジョニーはペダルを限界まで上げて、この曲をめちゃくちゃにしたがっていた」と語るほど、印象的なサウンドを生み出しています。当初、アウトロにはピアノも入っていましたが、最終的にはミックスでカットされています。

歌詞は、サビの「but I'm a Creep」（でも、俺はウジ虫だ）というフレーズに代表されるように、陰鬱でありながらも鮮烈な印象を与えます。一部、放送禁止用語が含まれていたため、アメリカなどでは歌詞が一部変更され、シングル版では禁止用語が差し替えられています。

誕生の背景

「クリープ」は、トム・ヨークがエクセター大学在学中にアコースティック形式で作曲したものです。トムが大学卒業後、初めてこの曲を聴いたコリン・グリーンウッドは、「あの瞬間、自分の人生が決まったように思った」と感銘を受けたと語っています。また、ジョニーは「クリープは、学生時代にトムのバンドのギグを見に来た女の子にインスパイアされてトムが書いたもの」と明かしています。

レディオヘッドがアルバム『パブロ・ハニー』を制作する際、プロデューサーのショーン・スレイドとポール・コルデリーに、この曲を「スコット・ウォーカーソング」と紹介しました。ショーンらは、バンドが本当にスコット・ウォーカーの曲をカバーしていると勘違いし、最初は「フックがあって使えそうな曲」だと感じながらも、内心残念がっていたそうです。しかし、その後のミーティングで誤解が解け、「クリープ」はレディオヘッドの曲として正式に録音されることになりました。

発表後の反響

発表当初は、歌詞に含まれる放送禁止用語が原因で、ラジオでほとんど放送されませんでした。しかし、まずイスラエル、次にアメリカでヒットし、Billboard Hot 100で34位を記録。その後、イギリスでも人気に火がつき、最終的には最高位7位に達しました。

「クリープ」は、間違いなくバンドのブレイクのきっかけとなりましたが、同時に活動の足枷ともなりました。リリース後のライブでは、「クリープ」目当ての観客がほとんどで、新曲はなかなか注目されませんでした。メディアに煽られて「クリープ」に飛びついたファンの多くは、必ずしもレディオヘッドに忠実ではなかったため、バンドのシングルは、次作『ザ・ベンズ』の「Street Spirit」まで、目立ったヒットを記録することはありませんでした。また、多くのメディアは、レディオヘッドを「クリープだけの一発屋」と評価し、バンドは難しいマーケティングを強いられることになりました。このような状況は、2ndアルバム『ザ・ベンズ』をリリースするまで続き、バンド内や仲間内では、「クリープ」を「crap（ゴミ）」と呼ぶジョークが使われていたほどです。

盗作問題

「クリープ」は、ホリーズが1973年に発表した楽曲「The Air that I Breathe」に酷似していると指摘されてきました。最終的に、この曲の作曲者であるアルバート・ハモンドとマイク・ヘイゼルウッドが、レディオヘッドを著作権侵害で訴え、その結果、『パブロ・ハニー』のブックレットには、「クリープ」の共作者として、この二人の名前が記載され、著作権収入の一部が彼らに支払われることになりました。

さらに、2018年には、レディオヘッドがラナ・デル・レイに対し、訴訟を起こしていることが明らかになりました。ラナ・デル・レイが2017年に発表したアルバム『Lust For Life』に収録されている「Get Free」という楽曲が、「クリープ」に酷似しているとして、著作権料の100％を要求していると報道されました。ラナ・デル・レイは、「自分の曲は『クリープ』にインスパイアされたものではない」と主張し、著作権料を40％まで引き上げたものの、レディオヘッド側が100％を要求していると反論しました。この問題について、元音楽雑誌編集者で著作権法に詳しい弁護士の小杉俊介は、「レディオヘッド側が100％の要求を否定していることから、実際には訴訟は提起されていないだろう」と推測しています。また、「これまで盗作騒ぎになった先例と比較すると、クレジットにレディオヘッドの名前が入るのはやむをえない程度には似ている」と指摘しています。また、「今回のアルバムタイトル『Lust for Life』自体が、イギー・ポップの楽曲・アルバムタイトルからの引用であることから、ラナ・デル・レイの音楽活動自体がロックカルチャーについての批評性を帯びていると考えると、彼女の主張には無理があるのでは」と指摘しています。小杉弁護士は、過去の事例から、「ラナ・デル・レイ側が提示していた著作権料40％の支払いが妥当な落としどころではないか」と述べています。

ミュージックビデオ

ミュージックビデオは、地元のオックスフォードのクラブで撮影されました。これは、EMIが制作したレディオヘッドの公式映像としては最初のものでした。

その他

2010年の映画『ソーシャル・ネットワーク』の予告編では、スカラ・アンド・コラシニ・ブラザーズによるカバーバージョンが使用されました。また、2007年には、アメリカのニュー・メタルバンド、コーンがMTVアンプラグドでこの曲をカバーしています。

さらに、吉幾三が2003年にリリースした「男ってやつは…」とマッシュアップした「Creep ( 男ってやつは・・・ )」がニコニコ動画にアップロードされ、後にBuzzFeedが取り上げたことで話題になりました。

2019年には、映画「彼女は夢で踊る」の挿入歌として起用されました。ただし、作詞作曲はハモンドとヘイゼルウッドの名前が入っておらず、「レディオヘッド」名義となっています。2023年の映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』のオープニングではアコースティックバージョンが使われています。

「クリープ」は、その音楽的な魅力と、様々なエピソードを持つ楽曲として、今もなお多くのファンに愛され続けています。

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