クル (シュメール神話)

クルは、シュメール神話に登場する怪物であり、元々は「山」を意味する言葉です。しかし、神話の中では神々に敵対する存在として擬人化され、恐ろしい怪物として描かれることがあります。

冥界におけるクルは、ギリシア神話のステュクス川に相当する冥界の河を見張る役割を担うとされています。この場合、「クル」は、大地の甘い水の下に広がる、乾燥した塵に覆われた「帰還することのない土地」を指し、冥界そのものを意味します。シュメール語では冥界を「クル・ヌ・ギ・ア」と呼び、その支配者はエレシュキガルです。

「Ki-gal」（偉大なる大地）や「Kur-gal」（偉大なる山）は「クル」とほぼ同じ意味を持ち、エレシュキガルの名前（Eresh-ki-gal）とも深く関連しています。クルは、原初の海である「アプスー」と大地「マ」の間の、空虚な空間に位置づけられています。

楔形文字「KUR」は、基本的には「山」を意味しますが、王国の名称の前に置かれる際には「陸」や「土地」といった意味合いを持つこともあります。この多義性が、クルという存在の複雑さを示していると言えるでしょう。

初期のシュメール学者であるサミュエル・ノア・クレイマーは、クルをドラゴンの姿をした怪物だと主張しましたが、これは後に否定されています。 クルの具体的な姿については、確定的な描写は存在しませんが、神話におけるその役割と、関連する概念から、古代メソポタミアの人々が抱いていた死生観や世界観を垣間見ることができます。

クルは、単なる怪物というだけでなく、冥界、大地、そして宇宙の構造と深く結びついた、象徴的な存在だったと考えられます。

参考文献：
Sumerian Mythology By Samuel Noah Kramer, p.110 "Scenes from the Shadow Side"
Frans Wiggermann, Mesopotamian Poetic Language, Brill, 1996, pp. 208-209
Gods, Demons and Symbols of Ancient Mesopotamia: An Illustrated Dictionary:Jeremy A. Black, Anthony Green, Tessa Rickards, University of Texas Press, 1992 ISBN 0292707940, p 114

関連項目：
アプスー
* エレシュキガル

もう一度検索