アプスー

アプスーの意義と神話

アプスー（apsûまたはabzu）は、シュメールやアッカドの神話に登場する地底の淡水の海です。この概念は、淡水の源として湖や泉、川、井戸などがアプスーに由来すると信じられていました。そのため、人々はアプスーを単なる地理的な存在としてでなく、神聖なものと見なしていました。

神々の住処

シュメールの神エンキ（アッカド語: エア）は、アプスの中に住んでいるとされ、この神は人間が創造される以前から存在していたと信じられています。エンキの妻であるダムガルヌンナや、彼の母ナンム、助言者イシムード、門番ラハムといった多数の神々や存在もアプスに住んでいたとされています。これらの存在は、アプスーを神々の神聖な領域として位置づけ、その重要性を高めていました。

宗教的意義

エリドゥの都市には、エンキを祀る寺院があり、これをエアブズ（E-abzu）と呼びます。この寺院は沼地の端に位置し、アプスーの神聖さを強調する役割を果たしていました。また、バビロニアやアッシリアの土壌では、寺院内部に設置された聖水の水槽も「アプスー」と呼ばれ、宗教的な洗浄行為に使用されました。これにより、アプスーの概念は流域の文化や宗教に深く根付くこととなりました。さらに、礼拝前の清めの儀式として使用されるイスラム教の中庭の泉や、キリスト教の洗礼盤など、アプスーが先駆的な役割を果たしているとして考察されています。

アプスーの神としての描写

アプスーが神として描かれているのは、バビロニアの創世記神話『エヌマ・エリシュ』においてのみです。この神話では、アプスーは淡水から生まれた最初の神であり、塩水の女神ティアマトの伴侶とされています。物語は、「上にある天は名づけられておらず、下にある地にもまた名がなかった時のこと…」という文から始まり、アプスーの存在を重視しています。また、アプスーは「第一の者、すべてのものの父」とされ、ティアマトと共に互いの水を混ぜ合わせ、創造の過程を形作っていく様子が描かれています。

エンキとの関係

アプスーは後のエンキ（エア）の原型とも考えられています。このような見方を支持するのが、社会政治学を提唱したジョセフ・キャンベルです。彼は、神話が示すものは、特定の場所や文明における宗教と現実の関係を表すものであると述べています。彼の考えに基づけば、宇宙の起源や神々の系譜は、既存の神話に対する反論や社会秩序の確立に寄与しているというわけです。

アッカド帝国や新バビロニアでの信仰においては、神エンキはエアと同一視され、アプスーの存在は逐次薄れつつも、形が残ることで祭祀に利用されました。こうした過程は、征服ともいえる文化的な「融合」を示しています。

結論

このように、アプスーは単なる地底の淡水の海にとどまらず、古代メソポタミアの宗教や神話において根本的な存在意義を持っていました。アプスーは神々の源であり、創造物の基盤でもあり、そして宗教行為においても重要な役割を果たしているのです。

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