クルト・フォン・シュライヒャー

クルト・フォン・シュライヒャー：ヴァイマル共和政の影の支配者とその悲劇的な最期

クルト・フォン・シュライヒャー(1882年-1934年)は、ヴァイマル共和政期におけるドイツの陸軍軍人にして政治家です。彼は職業軍人でありながら、政治的駆け引きに長け、「政治将軍」として知られました。大統領や国防大臣からの厚い信頼を得て、莫大な権力を掌握する一方、その権力行使は常に危険と隣り合わせでした。シュライヒャーの生涯は、ヴァイマル共和政の不安定さとナチスの隆盛、そして権力闘争の暗黒面を如実に示す物語となっています。

華麗なる経歴と政治への進出

シュライヒャーは、プロイセンの旧家の子息として生まれ、名門の陸軍士官学校を卒業。その後、参謀本部や戦争省でキャリアを積み重ねました。第一次世界大戦では主に参謀として従事し、戦後も軍内で重要な役割を担いました。

彼は特にヴィルヘルム・グレーナー国防大臣の信頼が厚く、その薫陶を受けました。グレーナーはシュライヒャーの優れた政治感覚を高く評価し、彼を様々な政治的任務に就かせました。シュライヒャーは、このグレーナーとの師弟関係を基盤に、政治の世界へ足を踏み入れていきます。

権力闘争と首相への道

1920年代後半から、シュライヒャーは軍内部のみならず、政界においても大きな影響力を持つようになります。彼はパウル・フォン・ヒンデンブルク大統領とも個人的な繋がりを持ち、その影響力を通して、政権運営に深く関与しました。

シュライヒャーは、様々な政党との間を巧みに渡り歩き、自身の権力基盤を拡大しようとしました。彼は複数の首相を誕生させたり、失脚させたりと、政局を自在に操る手腕を発揮しました。しかし、その裏では常に権力闘争が繰り広げられ、彼は常に危険な綱渡りを強いられていました。

1932年、シュライヒャーはフランツ・フォン・パーペン内閣の国防大臣に就任します。しかし、パーペンとの関係はすぐに悪化し、シュライヒャーはパーペン内閣を崩壊させ、自ら首相の座に就きました。

ヒトラーとの複雑な関係と破滅

シュライヒャーは、ナチス党のアドルフ・ヒトラーとも接触し、彼を利用して自身の権力を維持しようと試みました。しかし、ヒトラーはシュライヒャーを信頼しておらず、彼を排除することを目論んでいました。

シュライヒャーはヒトラーをコントロールしようとしましたが、結局ヒトラーの策略の前に敗れ、1933年1月30日、ヒトラーが首相に就任するヒトラー内閣が成立すると、シュライヒャーは首相の座を追われることになります。

最期の悲劇

首相を退任した後も、シュライヒャーは軍部内に一定の影響力を残していました。しかし、ヒトラーはシュライヒャーを危険な存在とみなしており、彼を排除する機会を伺っていました。

1934年6月30日、「長いナイフの夜」と呼ばれる大粛清において、シュライヒャーは親衛隊によって夫人とともに暗殺されました。彼の死は、ヴァイマル共和政の終焉とナチス・ドイツの成立を象徴する出来事となりました。

まとめ

クルト・フォン・シュライヒャーは、並外れた政治手腕を持つ軍人でしたが、その行動は常に危険と隣り合わせでした。彼は権力闘争の渦中に身を投じ、ナチス台頭への道を自ら開いてしまったとも言えます。彼の生涯は、権力の脆さと危険性を示す、歴史の教訓となっているのです。彼の功績と失敗、そして悲劇的な最期は、ヴァイマル共和政の崩壊という歴史的転換期における重要な一端を担っており、後世の歴史家や研究者によって様々な視点から分析され続けています。彼がもしヒトラーをうまく利用して、ナチスの台頭を食い止められたら、歴史は大きく変わっていた可能性もあるでしょう。しかし、歴史にifはないのです。彼の功罪を理解することは、現代社会にとっても重要な意味を持つと言えるでしょう。

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