クルマエビ

クルマエビ：生態から養殖、そして食卓まで

クルマエビ（学名: Marsupenaeus japonicus）は、インド太平洋沿岸に広く分布する大型のエビで、古くから日本人の食生活に深く関わってきた重要な水産資源です。本稿では、クルマエビの生態、分布、生活環、漁業、養殖、そして近縁種について詳細に解説します。

クルマエビの特徴

成体のクルマエビは体長15cmほどですが、メスでは30cmに達するものもいます。細長い円筒形の体には、太く短い脚が生えています。体色は青灰色や淡褐色で、頭胸甲には斜めに、腹部には横に黒い縞模様が入るのが特徴です。この縞模様は、腹を丸めた時に車輪のように見えることから和名の由来となっています。

額角には上縁に9～10歯、下縁に1～2歯があり、頭胸甲の背中側には額角から続く隆起と2本の細い溝が見られます。クルマエビ科共通の特徴として、胸脚の3対にハサミがあること、第2腹節が第3腹節の前部を覆っていないこと、夜行性であることなどが挙げられます。また、メスは卵を抱えることなく、一度に大量の卵を海中に放出すること、メスの方がオスより大きくなることも特徴です。

分布と生息環境

クルマエビは、日本近海からオーストラリア北部、南アフリカ、地中海東部まで、インド太平洋沿岸に広く分布しています。日本近海では北海道南部まで分布し、クルマエビ科の中では最も北に生息する種の一つです。

波の穏やかな内湾や汽水域の砂泥底を好み、昼間は砂泥中に潜み、夜になると海底近くで活動します。雑食性で、藻類、貝類、多毛類、小魚、動物の死骸など、様々なものを食べています。クロダイ、マゴチ、タコなどが天敵として挙げられます。

生活環

クルマエビは、受精卵を海中に放出するタイプです。卵はプランクトンとして浮遊生活を行い、孵化後、ノープリウス幼生、ゾエア幼生、ミシス幼生、ポストラーバ幼生と、様々な段階を経て稚エビへと成長します。孵化から約10日でポストラーバ幼生となり、海底生活に移行し、脱皮を繰り返しながら成長します。産まれた年の秋には、すでに漁獲サイズ（10cm以上）に達する個体もいます。寿命はおよそ1年半から2年半と推定されています。

漁業と養殖

日本では古来より、刺し網や底引き網などで漁獲されてきました。伊勢湾、有明海、三河湾など、大規模な干潟や内湾のある地域で多く漁獲され、愛知県と熊本県の県魚にも指定されています。旬は初夏から秋にかけてで、塩焼き、天ぷら、エビフライなど、様々な料理で楽しまれています。

養殖は西日本各地で行われており、明治38年には熊本県天草諸島で天然稚エビの飼育が始まりました。昭和38年には山口県で、世界で初めて卵から人工孵化させて育てる養殖に成功し、養殖技術が確立されました。クルマエビは他種に比べ、蛋白質とビタミンの要求量が高く、飼育も難しいため、価格が下落しにくいという特徴があります。しかし、ウイルス性の病気への対策が課題となっています。

クルマエビの近縁種

クルマエビ科には、クルマエビ以外にも多くの食用種が存在します。

コウライエビ（タイショウエビ）：クルマエビに似ていますが、模様がなく、尾だけが黒っぽい。
フトミゾエビ（シンチュウエビ）：体全体が淡黄色を帯びる。
ヨシエビ：インド太平洋沿岸に広く分布する中型のエビ。
ウシエビ（ブラックタイガー）：黒っぽく、背中の溝は頭胸甲の前半部だけにある。
クマエビ（アカアシ）：脚が赤いのが特徴。
バナメイエビ：近年、日本市場で広く流通している安価なエビ。

これらのエビは、それぞれ分布域、形態、味などに違いがあり、多様な食文化を支えています。

まとめ

クルマエビは、その美味しさ、そして養殖技術の発展によって、日本人の食卓に欠かせない存在となっています。しかし、養殖における課題や、近縁種との競争など、今後の持続的な利用に向けて、様々な取り組みが求められています。

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